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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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HN:
行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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★探偵×探偵助手(♀)

これの続き。これになるまで。
※原作男性キャラを女性化しています。
※長いので分割アップ。(1日1話ペースが目標)
※話が進んでいくと性的表現が出てきますので18歳未満の方はご注意ください。
※我が家至上もっともじれったいお話を目指しました。

 益田は書き終えた書類を丁寧にまとめながら、書類とは反対に整頓されない思考を抱えて、また窓の外を見た。
 幾度見たとて、窓を打つ風雨の勢いは変わらない。大きな台風は、南からじわじわと北上しほんのお情け程度に勢力を弱めてくれたものの、強靭な風と雨量をもたらす雲を伴い東京までやってきた。何せ台風の季節だ。益田とて日本に生を受けて二十云年、この季節には台風が来て大雨と強風に翻弄され、自宅から出られないか職場にたどり着いても職場に缶詰にされる可能性は知っている。事実、ラジオは何日か前から台風に注意しろと知らせていた。
「何をぼんやりしているんだい。君が無口だと不気味じゃないか」
 台所から出てきた寅吉が、益田の机の脇にある湯のみを取り上げた。文句を言いつつも世話焼きの探偵秘書兼給仕は、探偵助手の茶もまめに煎れなおしてくれる。
「・・・そんなぁ、まるで私が一日中ぺらぺらとお喋りしているみたいじゃないですかぁ」
「その通りじゃないか」
「もーお・・・ほら、和寅さん見てください。今日の分の仕事はしっかり片付いてるんですからね」
 誇らしげに束ねた書類を掲げて見せるが、寅吉ははいはいと適当な相槌を打って台所へ消えてしまう。
 寅吉には自慢してみたものの、実際のところ、書類仕事が終わるというのは益田にとって幾らか複雑な状況だった。次の仕事の依頼がない限りやることがない、つまりやることがないというのは、探偵助手の存在意義が危ぶまれてしまう。あればあったで、今度は定時帰宅ができなくなる恐れがあって、それもやはり困る。特に、ここ数ヶ月の間は終電を逃すという行いをもっとも警戒していた。当然今日は残業の恐れなどなくなったのだから真っ直ぐ帰ればいい。帰ればいいのだが、しかし。
 午後六時を過ぎてなお、雨脚は強くなり雷は空を引っ叩き続けている。普通の判断力がある者なら、定時帰宅を多少なり躊躇う天候だった。さらに悪いことに、益田の場合は幾度か職場に泊まったことがあるから、尚更にびしょ濡れになってまで帰宅することが馬鹿らしくなってしまう。
 マグカップを二つ持った和寅が台所から出てきて、誰も座らない応接の上に置いた。家事を一通り終えて一休みの心算だろうか。益田はそれを見て応接のソファへ移動すると、寅吉はやはり益田の正面の定位置に腰掛けた。
「それで、益田君。今日は泊まって行くんだろう?適当なもんしか作れないけども」
 主人がいなければ食事も手抜きになるというのは世間の奥様方とそう変わらないらしく、寅吉の口調は非常に暢気だ。こういう態度からもしみじみとわかるのが、この青年が益田を女性として見ていないということで、益田は心底ほっとする。
「いや、その、まだ・・・迷ってます。帰れるようなら、帰らないと、ね。申し訳ないですし」
「何言ってんだい、今まで何度もここでぐーすか寝てる癖に」
 寅吉がの指摘はもっともで、さらにはそれが善意によるものだからこそ、益田は言葉を濁す。
「ほら、私もね、お年頃ですからあまり殿方と一つ屋根の下・・・」
「お年頃ぉ? 年頃のお嬢さんというのは着の身着のままで大口開けて寝たりぁせんよ」
 ソファで寝こける益田を早朝になって起こすという役をやってくれているのは寅吉だから、やはり頭は上がらない。
 そして、ここまで女性として見られないというのは、情けないというよりいっそ清々しいものだと益田は思う。益田自身も寅吉をひとりの男性として見た事があったかと言えば、皆無ですと答えるしかなく、それが益田がこの探偵社に感じていた居心地の良さのひとつでもあった。
 それなのに――。
 とにかく、と寅吉が仕切る。
「電車もいつ止まるかわからないんだから、今日は泊まっときなさいよ」
 ちょっと冷えるだろうし毛布追加してやろうと言い募る寅吉に、益田はとうとう本音を零した。
「でも、榎木津さんが・・・」
「ああ、そういえばこないだここで寝るなって怒っていたっけね。・・・ま、こんな大嵐の日に先生だって君を投げ捨てたりぁしないだろうさ。第一、その先生だってこれじゃあ帰ってこれないでしょうよ」
 何の含みもなく、寅吉はそう言って茶を啜った。益田の遠慮(あるいは本気の辞退)なぞ何を口先だけのことをという体で、益田もこれ以上食い下がるのはおかしい気がしてくる。それに、寅吉の言う事はもっともだった。益田を悩ませる榎木津さえ、今夜探偵社に戻らなければ、益田はしれっと明日の朝でも夜でも、雨がおさまった時点で帰ればいい。  
 益田はいかにも優柔不断に独り言を漏らしてから、迷いを溜息で逃がしてやっと「何か温かいものが食べたいです」と声にした。

 榎木津が外泊することは、別に珍しいことではなかった。どこに泊まっているのかなど直接はっきりと聞いたことはない。以前昼前に帰ってきた榎木津に対して、女性の所に居たのではないかとふざけて聞いたことがあったが、その時は無言で頭蓋骨をぎりぎりと鷲掴みにされて大層痛かった。
寅吉が言うには『恋人ぉ?まあ女性のとこに居る日もあると思うけど・・・私が見るに、ありゃそんないいもんじゃないね。まあ大抵は木場の旦那と飲み明かしてんだよ』それから、秘書風情が言い触らすことじゃないなと、今更のことを言った。
 その時の益田には、天下無敵の上司のプライベートに興味があっただけで、特に感情が乱れるようなことはなかったのだ。では、今は――。
 益田は夕食に使った二人分の食器を洗いながら、身体の真ん中が痺れるような痛みを感じた。
 この嵐の晩を、榎木津がどこか美しい女性と過ごしているのだとしたら。
 ――嘘つき。
 どうせ心の中で呟くだけなのだから。そう言い訳をして、榎木津に悪態をついてみる。すっきりするどころか、あまりの独りよがりが滑稽で情けなくなるだけだった。

 益田と榎木津が奇妙なひと時を共有したのは、既に幾月か前のことになる。まだ早朝は酷く冷え込む頃の明け方、それまでの探偵と助手の間ではあり得ないような異常事態が起きていた。
 榎木津は益田に腹を立てていて、益田はそんな榎木津の暴言に傷ついていた。意志の疎通など日常的に取れていないが、益田は榎木津が怒る理由を理解できず苛立つ榎木津とのやり取りは拗れ、拗れた末に――。
 ここまで回想するといつだって必ずそうなるように顔が熱くなり、力が入らなくなった指が滑り、慌てて白磁の皿を握る。

 ――拗れた末に、榎木津は益田の視界を掌で奪ってから、口付けた。

 熱っぽくなる思考を振り切る為に、食器を水にしばらく手を浸した。
 死んでも榎木津の前で回想などしない。思い出した拍子に榎木津の目が過去の映像をとらえてしまったらそれこそ居た堪れない。
 身の回りで最も自分を女性扱いしていないはずの男が、実は一番女性として見ている。その可能性に、益田は打ちのめされた。あの夜には確信に近いものを得ていたのに、こうして月日が流れてしまえばやはりどこか夢の中の出来事だったようにも思えてきて、発作のように蘇る記憶に戸惑い、疑い、否定し、また可能性を思い描くという不毛なことを繰り返している。
 案外単純なことなのだと、思い当たりもするのだ。好きか嫌いか、恋かどうでないものか。
 しかしその疑問文に主語や述語を当てはめた瞬間に、益田は思考を遮るほどの酷い羞恥に襲われてしまう。男と女という代名詞に自分と榎木津をあてはめると、それはどうしても「うまくない」気がするのだ。
 手を拭きながら漏れる溜息がどういう感情のものなのかも、益田はまともに考えたくなどなかった。
 今、どこにいるのだろう。
 心が余裕なく疼くのも、単純な疑問文に変えてしまった。

 榎木津が帰ってきたのは、深夜1時を過ぎた頃だった。

 益田は久々の応接ソファのベッドにしばらく寝付けずにいたが、目が覚めてみて自分が眠りについていたことに驚いた。
 視界は当然暗く耳にはざあざあと強い雨音が届くが、風の音はさほどしなくなっているのに気付く。そして、事務所の扉を開く音がして、益田はびくりと反射的に首を上げた。
 ――ああ、私の馬鹿。
 寝た振りをすればよかったと後悔しても、もう遅い。
 視線の先には、玄関の灯りに照らされた細長いシルエットがあった。
 湿った布が擦れる音と、靴底が床を濡らす音がする。
「濡れてます?」
 おかえりなさいという挨拶や、用意していた宿泊の言い訳よりも先に、益田の口はそんなことを呟いた。
 榎木津は少し驚いたような声を漏らし、益田と目が合う。榎木津の弱い視力では暗闇の中の自分の姿までわからなかったのだと、益田はこの時初めて気付いた。
「・・・お前、居たのか」
 今宵初めて耳にした榎木津の声は、僅かに息苦しそうに聞こえた。
「え・・・っと、台風。台風で、帰れなく、なってしまいまして・・・」
 言い訳というよりは事実そのものだというのに、口にすると何故か後ろめたい気がして、歯切れ悪い言い方になったのがまた気まずい。
 常よりも微かに荒い呼吸音がして、益田は榎木津が雨に降られていることを思い出した。この台風の夜に傘を持たずに出て、それで走って帰ってきたのかもしれない。不自然なことは多かったが、それを問うよりもまず先に、と益田は起き上がる。完全な着の身着のままだったから衣服は少し皺を伸ばすだけして、髪は手櫛で気休め程度に整えてから、榎木津に近寄った。榎木津は濡れた上着を脱いで益田が寝ていたのとは別のソファに乱暴にかけると、わしゃわしゃと濡れた髪をかき混ぜた。益田の頬に、極小さな飛沫が当たって消えた。
「ああびしょ濡れじゃないですか・・・。拭くもの持ってきます」
「ん」
 口も開けずに返事をした榎木津からは、酒の匂いが極薄く香った。日中は飴玉のように淡い色の瞳は今は闇を吸い込み、その視線の底にある感情を見えなくさせている。益田は榎木津という存在から逃げるように洗面所に向かい、手拭いを何枚か用意してやっと、意識しすぎだと動揺する自分を恥じた。
 ――あんなことを言うから。
 いつかのほとんど明け方の夜に言った榎木津の台詞を、益田は忘れた日はない。
 覚悟をしろ、榎木津はそう言った。部屋に連れて行くから、覚悟をしろと。問答無用で、連れて行くよと。
 そんなことが、自分と上司である榎木津の間に起きるなど、想像ができなかった。想像しづらいというよりは、想像あるいは妄想で疑似体験をすることが、酷く恐ろしく思えたのだ。だから余計に、忘れられなかった。
榎木津にとってはどうなのだろう。
 益田には、それこそ想像できない。だって、「アノ」榎木津なのだ。
 「アノ」榎木津が、連日のようにからかったり詰ったり蹴ったり殴ったりする志願下僕である自分を、自室に連れて行ってどうにかして楽しいのだろうか。
 かつての口付けこそ、夢のような気がする。
 あれは現実だったと益田は他でもない榎木津本人によって自覚させられてはいるのだが、それでもあれは夢だったと思った方が余程リアリティがあると思うのはどうしようもなかった。榎木津が益田の無自覚に腹を立てたことと、口付けをしたことに裏づけされる、榎木津の心情など、それこそSF小説だ。火星人が地球を侵略するのと、榎木津が己に思慕を向けることは、ほとんど同系列だ。ありえない、という意味で。
 大き目の手拭いを持ったまま静止していた益田は、ありえない、と頭の中で呪文のように唱えながら急ぎ足で応接へ戻った。

「遅いぞオロカ」
「すみませぇん」

 ぼうっとしていたのは自分の過失だったから、益田は素直に謝って手拭いを渡す。
 文句を言いながらも顔を拭いたり服の上から水気を抑える様子を見ていると、益田は多少は気が落ち着いたのを感じた。
「こんな台風の日に、何処へお出かけだったんです?」
「・・・別に・・・暇だったから、台風を見に行って、木場が休みだったから、飲んでいただけだ」
 台風を見に、というところで益田は首を傾げたくなったが、同時に自分が何故今落ち着き始めたのか理由がわかった気がした。どうやら、榎木津がここに帰ってきたという、言ってしまえば当たり前のことに安堵しているらしい。
「あの、傘持ってなかったんですか?」
「木場の馬鹿に貸してやった」
「木場さん?・・・そりゃ、なんだか、仲のよろしいことで」
 腑に落ちないのを益田はそのまま顔に出した。木場が可愛らしい女学生とかであれば納得できる話だったが、実際は屈強な体格の刑事である。榎木津が濡れてまで木場に傘を貸す必要はないだろう。榎木津は特に言うことはないとばかりに、がしがしと手拭いで髪を拭いている。髪が痛んでしまうなと思った。 
「よく帰ってこられましたねぇ。和寅さんとも言ってたんですよ?これじゃ榎木津さんも帰ってこれないって」
 深く考えずに言葉を継ぐと、榎木津は、創作品のように精巧な無表情を益田にまっすぐに向けた。
「ふん、だからお前、泊まったのか」
「え」
 その指摘は、半分だけは図星だった。もう半分は、榎木津には聞かせづらく自分としても説明しづらい複雑な感情が絡んでいたから、上手い弁解が浮かばない。そうして何よりも益田を瞬間的に焦らせたのは、榎木津の指摘は過去にあった二人の異常なやり取りを踏まえているということだった。つまり「あの夜」の行動や発言は「二人」が共有する記憶であり事実なのだと、改めて証明される。
 なんだ本気にしたのか愚か者め。この僕がお前のような色気のない下僕をどうこうするわけがないだろうが。
 榎木津の言いそうな台詞を思い描いて、過去に言われたことがあるのではないかと思うほど現実的だというのに、それは益田の妄想に他ならなかった。現実の榎木津は、今益田をまっすぐに見据えて、その薄い唇は一文字に閉じられているのだから。
「あの、これはただ」
「あ、水羊羹」
「は? ああ、食後に貰って・・・榎木津さんの分もありますよ」
「当たり前だ」
 食後のおやつの話は残念ながら続かなかった。ぱた、と榎木津の髪から雨の雫が落ちる音と、手拭いが擦れる音を息苦しく聞いたり、水気を拭きとって朱がさしてきた榎木津の顔色を見ていることしかできない。
 家に帰りたいな、と思った。同時に、霞のように固まらず何かはっきりしないけれど、何かを欲する感情が足元に蟠っていて、行き先がわからない。ソファに戻るのも、家に帰るのも違う、榎木津の前でこうして突っ立っていることはもちろん違う。
 ぎゅうと掌に力を込めてから、益田はゆっくりと視線を上げて茶色い瞳に焦点を合わせ、結局臆病に逸らす。

 ふう、と榎木津が鼻で溜息をつく気配があって、使い終えた手拭いが革靴の足元に落ちた。

 空いた手は素早く、益田の手首を掴んだ。
 そのままくるりと背を向けて歩き出す。
 驚きに見上げれば、榎木津の顔には憂いのようなものが見えた。益田はそれを似合わないなと思うと、自身も憂鬱になった。


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