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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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HN:
行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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★探偵×探偵助手(♀)
これの続き
※たいしたことしてないけど性描写ございます。





 理性とは、本能とは、この体の何処にあるのだろうか。
 益田には皆目見当がつかなかったが、それでも何処かにはあるのだろうと確信できた。とにかく、いずれも自分という存在を成り立たせている軸のようなものに違いなく、きっとそれは別々にあるわけでもない。
 それを、飴玉のように
「ん・・・っふ・・・ぅ」
 じわじわと舐め溶かされていくような感覚を味わうほどの口付けを、益田は初めて知った。
 砂糖のように甘いわけではない。それでいて、甘ったるいような粘る痺れが広がっていく。
 どちらがどちらの唇で舌であるのか、既に境があやふやだった。触れ合うなどという生易しい表現のできない接触は、傍目に捕食に似た景色でありながら、行為の理由の不可解さと不毛さの点で全く異なっている。しかし、どんなに飢えている状態でも、今この時ほど互いが互いのことしか、もしくは何も考えられなくなるほど夢中になったりはしない。
 榎木津の口付けのやり方は、日頃益田に示す無関心さからは想像できないほど情熱的で、口付けだけですべて思いのままにしたいような尊大さがあり、益田は実にあっさりと屈服し翻弄された。頭をほとんど押さえつけるような手や肩を抱く腕の締め付けに込められた意志が、益田の身体的精神的抵抗をすべて無効にしてしまう。そしてその戸惑いはすべて快楽に溶け込み、熱を増していく。
 この夜益田を苛み続けている葛藤など思い出すことすらできなかった。
 熱い首筋に手を這わせて縋ってしまったことも、益田は気づいていない。縋られた方は、細く長い指が血管の上を撫でる感触に煽られ、口の端で笑った。
 榎木津は絡めていた舌を引いて、一度わざと音を立て唇を吸ってから離れた。
 互いの唾液で唇がしとどに濡れているのが二人が何をしていたのかを如実に物語っていて、益田はその口付けの発端を思い起こす。
 ――好きだ。お前なんか。
「・・・そうなんですか」
 酷く情熱的な口付けの後だと言うのに、榎木津の顔色はほとんど変わらないどころか益田には常よりもきりりとして見えた。
「何言ってるんだ。お前分かってたくせに」
 榎木津は珍回答をする生徒を叱るような調子で言うと、益田の項を片手で包み込む手は放さずに空いている手で自分の濡れた唇を拭い、ついでとばかりに益田のそれも同じように拭った。先の口付けを思えば格段にあっさりとした触れ合いだというのに、湯気でも上がりそうなほど胸が熱い。
 分かっていた。そう言うならば、益田は榎木津が初めて口付けてきた時から分かっていた。それは熱情というよりずっと優しく、益田に対していつも荒っぽい榎木津とは別人ではないかと思うほど、心のこもった口付けだったのだ。しかし――益田にはなすべきことがわからなかった。
「分かっていたからって、どうしろと言うんですよ。あなた何も言わないし・・・何もしないし」
 ただ、去ってしまったのだ。何も望まず、何も要求せず。そう思えば、なんだか自分ばかりが右往左往しているのが理不尽な気がしてちらりと榎木津を見る。榎木津は一瞬、表情を顔から削ぎ落としてきょとんとすると、ぱちぱちと瞬きをしながら不思議そうな顔をした。
「だって、こんなこと、お願いしてどうにかなるものじゃないだろうが」
「・・・お願い?」
 こんなこと、の意味が分からず首を傾げる。榎木津は淡々とした声で続けた。
「お願いだろう。命令なんかもっと無駄だ」
 日々自分に命令を下す男が何を言っているのか。
 それから榎木津は、何故か、初めて目にしたものを触ってみようとする子供のように、楽しいような心細いような顔をして、言った。
「惚れろと言えば惚れてもらえる道理なんて有るか。・・・全部お前の勝手だよ」
 すぐには、言わんとすることの意味が分からなかった。
 お前の勝手。それが、益田自身の勝手であると気付いて、目の前の男が誰なのか分からなくなる錯覚に陥った。榎木津さん、と自分に言い聞かせるようにしてやっと呼びかけるも、不自然に途切れ掠れた声になってしまう。
「そんな・・・」
 何を、まるで弱音のようなことを言っているのだろうか。
 こういう榎木津を、益田は見たことがなかった。
彫像のような美貌は霞まないし、今は普段起きている時よりもいっそ精悍に見え、言い切られた台詞も、堂々としていて偉そうで、これも常態であるのに。
 お前の勝手だと突き放した言葉がらしくない。日頃、自分の意のままにならないものなどこの世にないという顔をしているくせに。
 出会って初めて、益田は榎木津を哀れだと思った。
 榎木津の腕の締め付けよりもよっぽど強く感情を締め付けられる圧迫感に半ば泣きそうになりながら、縮こまっていた腕を恐々と伸ばす。榎木津の腕が回ったままの腰をぐっと持ち上げ、伸ばした腕をそっと無防備な首に巻きつける。相手の顔を見ようとはしなかった。顔色を伺うよりも、ただ抱き締められて欲しかった。

 視覚化できない感情というものを、榎木津が苦手にしているのは知っていた。
 しかし間違ってもそれが、弱さであると、考えたことなど無かったのだ。
 
「言ってくださいよ」
 
 言えないわけがないと思っていた。益田の知る限り、榎木津は何事にも秀でていて器用だったから、きっと、恋愛だって本気であるならそれは見事に口説くだろうと。
 益田はふと、いつか見た大磯の海を思い出した。
 そっと抱き締めた頭を指先で撫でる。すると猫科の動物のように、頭をすり付けてきた。
 あの海で泣いていた女もまた、同じ台詞を言いたかったのだろうか。いいや、と益田は思う。あれはきっと、二人とも何も言わなかったのだろう。互いに相手の言葉を待ちながら。
 榎木津は益田の腕の中で、不貞腐れた子供がするように一言も喋らない。

 ああほらやっぱり。

 恋をすると、暴かれてしまう。
 見たことのない相手の闇を、真っ白な光で照らし出す。ほとんどそれを喜びをもって。
 


 極寒の箱根の山で、女性ながら健気に警察としての職務を遂行する益田を、ちょっとくらい誉めてやってもいいと思える程度に榎木津は評価していた。しかし、まさか数ヶ月後に探偵になりたいと自分の前に現れるとは予想できるわけがない。公務員を辞めて上京までして。こいつは凄く馬鹿なのかもしれない、そうだ馬鹿だ馬鹿愚かだと、確信するまでに時間はそうかからなかった。
 馬鹿な子ほどかわいいという先人の言葉になるほどと思うまでには、もう少しだけ時間がかかったのだが。
 髪を梳く指先の感触が心地よくて、目を半分伏せる。
 言ってくださいよと叱られたところで、今更遅いと榎木津は開き直っていた。第一結局、不本意ながら、さっき言わされたのだし。
 不本意だったと言うのに、口にした瞬間深く深く満足した。そういう自己満足を嫌っているというのに、思わず熱病にかかったようなキスをしてしまうほどに激しい感情が心を占めた。
 それは、何を考えてなのか益田が自分を抱きしめる今も、あまり変わっていない。
 目前にある肩にかかる黒髪を絡めとりかき上げると、隠れていた白く細い首筋が覗き、何か考えるでもなくそこへ吸い付けば滑らかな肌と柔らかい後れ毛が唇を、甘みのある肌の香りが鼻を楽しませた。

「・・・生意気・・・」
「っ、え?」

 舌先や唇で静脈の上を撫でてやれば、先の口付けで体を熱くしながらも半端に理性が残っている益田は、微かに愛らしい反応をしながら体を硬くしてしまう。まるで処女のような緊張の仕方を怪訝に思うが、背や腰をさらさらと撫でているうちに手触りの方へ意識が集中していった。
 頼りない腰をさらに引き寄せて胡坐の足に跨らせるようにすると、益田はますます慌てたように悲鳴か非難か分からない声を上げるが、榎木津にしてみれば目前に白い首筋と鎖骨の陰影があるわけで、大変に興が乗る。さらに、寝巻きとして気まぐれに与えた薄手の白いシャツは、ベッドライトの灯りを透かせて益田の単調ながらもそれなりに優美な体のシルエットをはっきりと教えていた。
「細い」
 意味もなく、ただ見たまま触れたままを口にするのは常のことだ。我を忘れて抱いたら潰れて死ぬんじゃないかという懸念がその言葉の裏にあるのを、益田がわかるはずもない。
 男性の中でも長身の榎木津が着ていたのだから当たり前だが、それにしても益田の体格にはそのシャツはかなり布を余らせていて、服の布地の幅で触れようとすると、くしゃりと布がドレープを描き、余計にその華奢さを強調させた。片手で拘束しつつ、するすると脇から腰の辺りを服の上から撫でれば、あまり女性らしくはない肉の薄さと、女性特有の体のしなやかさを掌で感じる。
「さ、触り心地、よくないですよねぇ」
 未だ核心的ではない愛撫にさえ肩にしがみつくようにしてたえている益田は、それでも卑屈で色気のないことを言う。そうだなあと如何にも投げ遣りの返事をしながら、嫌がられるほど思い切り可愛がってみたいような半ば嗜虐的な気持ちになって、榎木津は結局、視覚がもたらす誘惑のままに目の前の肌に噛み付いた。
「あ」
 こんな些細な刺激で演技でなく背筋を震わされたら、煽られない男はいない。榎木津は目前の男物のシャツのボタンを手早く二つほど開けて、より柔い肌を暴く。
 自他共に認めるように、益田の体格はよい方ではない。身長は案外あるのだが、胸も尻も薄くタイトなスカートやスラックスを履けば腰の細さが目立ち、まるで少年のようであるのが益田のコンプレックスのひとつだった。榎木津が特別に豊満な肉体の女性を好むわけではなかったが、色気がない、とは榎木津が好む益田いじめの常套句で(実際に先程にも言っている)、やはりこうして触れれば肩や肋や腰の骨を硬く感じる。しかし、と榎木津は、今ではもう思考の片隅だけで、思うのだ。
 触れれば応える肌の弾力や、呼吸の度に小波が立つように血が巡る生命の気配、与える快楽に熱くなる吐息や声、そういった手触りが、手の中にあることの幸運を。
「よくなくはないよ」
 益田の愚問に応えながら、もっともっととあるだけ全てを強請るように、釦を開けた側から肌に口付けていく。
腹の辺りまで開けて襟を肩から滑り落とせば、白い肌に橙の灯りが点った。鎖骨の浮き出た首や肩のラインを美しいと思ったし、下着に覆われたままの胸は小さくはあったが、浅い谷間の影が十分にその柔さを伝えていて、榎木津は無意識に唾液を飲み込む。益田の卑屈さなど今に始まったことではないからいちいち正してやったりはしないが、榎木津としては「十分」だった。艶々とした丸い肩を甘く噛みながら、背中にある下着の金具を外して性急に肩紐を落とす。
 上半身が露わになったことに恥らって腕の中の体はまた縮こまるように震えたが、そんなことには構わずに、緩く丸い円を描く乳房の輪郭をするりと撫でて、触れた事実を刻み付けるように、その軌跡を唇と舌先で追っていく。舌に感じる皮膚は温く滑らかで、その舌触りに誘われるように歯を立てた。益田が息を飲む気配にぞくりと痺れてからは、欲が導くままに、いつの間にか尖り色づいたところに喰らいついた。当たり前だが味がするわけでもないそれを、丁寧に舌で撫で転がし時々歯を立て、もう片方の乳房は空いた手で撫でるように揉んでやれば、湿度の高い吐息が小刻みに漏れるているのが聞こえてきた。快楽に臆病になって益田が腰を引こうとするのを、体を抱いていた腕に力を入れてやめさせれば、後は吐息に合わせて時折びくりと震えるのが伝わるばかりになる。
「ぁ・・・ふ」
 舌を広く使って舐めるのと同時に、もう片方を指先で押し潰しながら捏ねてみる。
「あっ、ゃ・・・」
「気持ちいい?」
 手と舌と耳で、事の序章を楽しみながら益田の反応を無意味に確認してみるが、掠れた声が僅かに高くなるのみで言葉にはならない。榎木津の口は柔い感触を名残惜しく感じたが、それよりも益田がどんな表情をしているのかが気になった。ちゅ、と音を立て離れて見上げれば、切れ長の目はしっとりと濡れながら情けなく垂れ下がり、薄い唇は物言いたげな隙間を空けながら細い呼吸を繰り返している。情けない表情なら毎日のように見ているが、色欲に戸惑う顔を見るのは当然初めてで、榎木津は思わず指先で続けていた胸への愛撫を中断してその頬をするりと撫でた。しかし、せっかくよく見ようとしたのに、益田は視線に耐えられなくなったのか困りきった顔で横を向いてしまう。
「おいそっぽ向くな」
「だ、だって・・・じゃあ見ないでくださいよぅ」
「見たいからこっち向けと言っているんだろうが」
 いやとかでもとかまだ言い募る益田に焦れて、榎木津は頬に当てていた手で顎を掴み力ずくで正面を向かせた。益田は榎木津の力技には慣れたもので、耳に馴染んだしおしおとした声色で酷いですぅと非難するが、榎木津もそんな訴えは日頃から無視している。その視線は非常に不躾であるのに、まるでアルコールに陶酔しているかのように柔らかいのが、益田に今この状況がどういったものなのか知らしめていて恥ずかしい。
「お前、そういう顔するんだな」
「・・・なっさけない顔、してんでしょう」
「え? 可愛いよ」
「なっ」
 耳を疑う言葉に思わず榎木津の目を覗き込めば、ゆっくりと細くなった。ヴィスクドールにも似た秀麗な顔立ちがするには、男っぽさが過ぎた笑い方だった。   
 ――欲情してくれている。
 榎木津のガラス玉のような瞳が欲に濁って物騒に光るのを見て、ただでさえ熱くなっている体がまたさらにとろりと溶け出していく。灯された自身の欲情を、とても大事で愛しいように感じるのは何故なのか。
 益田は近づく顔に唇を寄せて応えながら、榎木津のシャツの釦にそっと両手を伸ばした。

 相手を脱がしてみて初めて、益田はまったく今更のことながら寝室の明るさが気になった。美術品もかくやと言いたくなる美しく引き締まった男の上半身は、油断すれば見惚れてしまいそうだというのに、いざ視線を当てるとどうしようもない羞恥が益田の思考を侵す。自身は肘でようやくシャツを引っ掛けているような半裸を晒しているというのに、相手の肌を見るほうが恥ずかしいのはどういうことなのか。一方で、脱がされている榎木津はやけに機嫌よくうふふと笑いながら益田の腰を抱きしめたり首もとを噛んだりと、仕草はまるで懐こい犬のようで、纏う色気とのギャップが甚だしい。あまりくっついて来るから、なかなかシャツの袖が腕から抜けないのも困る。
「榎木津さん、ちょ、っと離れて・・・」
「んー?」
 声をかけても、何が面白いのかにこにことしながら益田の胸元やらあばらの辺りに軽く吸い付いたり噛んだりしている。そこに熱を煽る為の愛撫というような執拗さはなく、益田はその頑固な卑屈さから余計に居た堪れなくなってしまうのだが、それを上回って心地よいから止めさせられない。益田は困惑のような愉悦のような溜息を吐いてから、これは離してくれなさそうだと諦めてしまうと、もうひとつ気になっていたことを片付けようと身じろいだ。
背筋を仰け反らせて後ろを向き、肘で蟠るシャツを邪魔に思いつつも腕を伸ばす。目線の先にはベッドライトのスイッチである華奢な鎖があった。
「駄ぁ目だ」
 榎木津は益田に絡めていた腕にぐいっと力を入れて離れた体を引き寄せると、ついでに尻の下辺りに空いていた手を入れて腰を上げさせた。益田はおわっと色気のない悲鳴を上げながら自分と同じに半端に裸になった肩にしがみつけば、榎木津は益田の胸の下、まだシャツで隠されている薄い腹にぴったりと頬を当てて静止した。
「真っ暗になっちゃうじゃないか」
「そりゃそうですけど・・・だってこういう時ですから・・・」
 言いながら、益田はいまだに「こういう時」というのが信じられず密かに気まずさを感じた。ただ寝るわけではないのだ。視力の弱い榎木津の目を思えば、ランプを点けていないと危ないこともあるのかもしれないが、今は部屋に一人でいるわけではないのだし暗くしても然程問題はないように思えた。何より益田としては、せめて真っ暗にして視覚から来る刺激を減らさないと、貧血か心臓発作かあるいは仮病か何かで倒れてしまいそうな気がする。
 榎木津はオーストラリアに住む珍獣のようにぺったりと益田に張り付いていて、その腕の力から、益田の勝手を許してくれる気などさらさらないとわかった。それでもくっつかれていると、ぼんやりと温かい気持ちになってしまう。
「・・・恥ずかしいんですよ。明るくて、よく見えちゃうから」
素直に心情を明かしながら、ふわふわと柔らかい茶色く透ける髪に手を差し込んだ。
 すると榎木津は顔の向きだけ変えて、鳩尾の辺りに顔を擦り付け目を閉じた。まるで眠ってしまったかのように動かないので一度呼びかけてみてやっと、腹の辺りで口が動くのを感じた。
「よく視えるんだ」
「え?」
「真っ暗じゃ、よく視える。そんなの邪魔じゃないか」
 くぐもった声と温かい吐息のせいで、体がびりびりと響いて熱くこそばゆい。益田は榎木津の言葉をひとつひとつ反芻してやっと意味を正しく読み取り、返す言葉はもう見つからなかった。
 本人から直接は聞いていない。ただ、知らないわけではなかった。榎木津の非常識な目は、暗い場所の方がよりはっきりと、誰かの過去の映像を再生させてしまうのだと。
 一瞬の間に想像をしてみた。自らが腕に抱く人の無数の記憶を目の端に映すその感覚を。
友人知人他人と会った、あるいは視覚に入った記憶など五万とあって、自分では認識しきれないほどだ。ライトが灯る今だって、榎木津の目はそれを容赦なく映しているはずだった。ましてや、現実の映像が乏しくなる暗闇であれば。
 益田は黙って茶色い頭を見下ろしながら、柔らかい毛先を指に絡ませた。
「・・・じゃあ、布団、入りましょうよ」
「いいよ」
 榎木津はそう言った口でぴちゃりと脇腹を舐めると、細い腰にようやく引っかかっていたようなズボンを軽く引っ張って落とした。あっけなく太腿の途中まで露わになったのを見ればまた気分がよくなるが、益田が顔を羞恥に歪めながら肩を押してきた。榎木津は仕方ないと言わんばかりに口を曲げて、益田を腕に抱き込むようにして寝台に倒した。



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