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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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※学パロ③-2
『僕らの敗因はいつも』の前日のこと
※野郎しか出ない。
※「か、掛け算なんかじゃ・・・ないんだからねっ!」
※榎さんが大泣きしている。



 榎木津は、ある後輩ただ一人だけに、涙を見せる。
 幼馴染の木場には死んだって涙を見せないが、では木場を信頼していないとか心を許していないとか、そういう追求は的外れだ。
 その後輩、中禅寺秋彦が、自分を泣かせるのだと榎木津は思っている。
「いい加減泣きやまないと、明日学校でキングが失恋して号泣したって言い触らしますよ」
 中禅寺は、呆れているのを隠さない顰め面で濃く熱い緑茶をずずっと啜った。榎木津は大きな瞳に大きな涙の滴を溜めたままちらりと視線だけ向けたが、結局無関心に再び俯いて、その拍子にぼとぼとと涙の粒が卓袱台に落ちた。泣きながら、榎木津は自分の涙が和室の蛍光灯に照らされ、黄色く光るのが少し綺麗だと思っていた。
 中禅寺の脅しなど口先だけだし、実際効力はないとわかっている。天上天下唯我独尊、学園最強にして最凶、相応しい美辞麗句は並べたらきりがない、そんな榎木津礼二郎が、何故失恋し、何故それを苦に無様に涙を零すだろう。変わり者の後輩一人が必死に言い触らしたところで、誰も信じやしないのだ。
「榎さんはさ」
 中禅寺は気安く、あるいはいくらか優しい声色で呼びかけ、話し相手になるという意志表示をした。中禅寺が学外で榎木津を先輩と呼ばないのは、榎木津自身が望んだことでもあるし、中禅寺が榎木津を先輩などと敬う心を欠片も持ち合わせていないからでもある。つまり、後輩というよりは明らかに友人で、だからこそ特に訳を話すでもなくただしくしく泣かれるのは、いくら本を片手にしていても居心地が悪い。そうして、不甲斐ない。
「何が悲しくて泣くんだ?」
 その問いかけは初めてではなかった。榎木津は忘れているが、中禅寺は幾度めなのかとわからない程問うている。
 本当にわからないのだ。榎木津が何を悲しんで泣くのか。
 中禅寺が持ち合わせる常識では、恋しくもない相手との別れに泣く必要は、ない。
「っく、・・・ひっ、く」
 榎木津は意志のある視線を返しながらも、友達と口喧嘩をした挙げ句泣き出した小学生のようにしゃくりあげるものだから、上手く口を利けないらしかった。
 すらりと伸びきった背筋を丸め、白磁のように滑らかな肌を赤く染め、さらにそれを乱暴に擦るから涼しい瞼は無惨に腫れていて、色の濃い琥珀のような瞳から溢れるのは樹液ではなく酒のように透明な涙だ。などと観賞したところで、それがいくら類稀なる美貌と言っても男の泣き顔など不愉快なばかりである。
 目の前の日頃王様のような男が、こうして子供のように泣くのは自分の前でだけだと、人の感情の機微に敏感な中禅寺は見抜いている。榎木津にとって自分が特別というよりは、自分が榎木津を泣かせているという可能性すらも察知していた。
 中禅寺は今宵幾度めになるのか知れない溜息と共に、榎木津から目をそらす。情けないなあ、面倒だなあ。どうしたいんだ。何で泣くんだ。何をして欲しい。何ができる。
 榎木津が泣き場所を求めて中禅寺が住む住居兼古書店に遠路はるばるやってくるのは確かだった。(榎木津の家から中禅寺の家までは駅三つ分は離れているのだ)ならば泣かせてやりたい気がしてしまうから、中禅寺はつい失恋する度に泣きに来る榎木津を甘やかしてしまう。
 癖が多く扱いづらく困った友人だと思う、けれどやはり、榎木津にとって中禅寺がそうであるように、榎木津は中禅寺にとって「友人」だった。放ってはおけない。
「案外、好きだったのか?」
「・・・き、きら・・・い、なら」
 しゃくりあげながら、嫌いなら付き合わない、というような意味のことを途切れ途切れに語る。
「本気だったのか」
「・・・」
 ひっくとしゃくりあげながら、しばし黙って考えるような顔をしてから、こくりと頷いた。
「嘘つけ」
 榎木津は後輩に向けて恨みがましい目を向けた。
「おま、えっ・・・ひっ・・・ずるっ、い!」
「何とでもおっしゃい」
 榎木津のいつも以上に拙い言葉の意味は大体わかった。中禅寺の恋愛経験値がつい最近急上昇したために、榎木津に対して今までよりも偉そうなことを言うようになったのが悔しいのに違いない。
「あんたの考えていることなんて知らない。でも、あんたが前の彼女のこと別に好きじゃなかったってのは知ってる」
「好き、だっ」「違う」「違、わ、ない!」「違うね」
 問答は、中禅寺の喉が乾いて茶を飲み干すまで続けられた。
 茶を入れ直そうと思いついた時、中禅寺はこう言ってから席を立った。
「あんたの言う好きは恋愛じゃない・・・って、否定することしか、僕にはできないよ」
 大事な友人は、つまり、他人なのだ。ここがこうでないから恋ではない、ここがこうであれば恋ですよ、そう示すことはできない。中禅寺自身、一生の恋だと思いこんでいるものはあるが、本当にそれがそうなのだと他人に誇示する自信はない。
 だから、中禅寺は自分の性格と信念に則って、わかることしか口にはしない。否定しかできない。
 榎木津は、結露した栄養ドリンクのガラス瓶みたいな目で、中禅寺をまっすぐに見上げた。縋るように弱々しく涙に濡れているくせに、ぴんと張り詰めて鋭い視線だった。

「・・・それだけじゃあない」

 意味がわからなかったのは、一瞬だった。
 榎木津の真意と、幾分か落ち着いたらしい声色に少し嬉しくなって、中禅寺はもうひとつの湯呑みも一緒に手に取った。



 ***

同設定でまた書きまーす。


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