酷い夢を見た。
背中に溜まった熱に、汗が滲むのが気持ち悪い。
夢の映像は春風に舞い散る砂塵のように消えていく。それでいて、唇には偽ものの感触だけ未練たらしくも拭い去れない。
夢は己の欲望の鏡だという話を聞いたことがあった。そうだとしたら、己の欲深さが恐ろしいと思う。
夢の中、想う人はまるで世界で一番愛しいものにするような接吻をし、
好きだと告げた。
『好きだ、君が』
自分は、抱える想いを誰にも打ち明けられないというのに。
想う当人には勿論、友人知人にだってただ一言も漏らしたことがない。
そうだというのに、何て厚かましいのか。
柔らかな唇と低い声の幻想のせいで、五感すべてがまるで風邪でも引いたように精度が落ちていた。
帰ろう。
想う人の気配が強すぎる場所で寝るからよくないのだ。しかし、立ち上がって屋上で洗濯をしているはずの寅吉に書き置きを残す必要を思い出す。再度ソファに腰掛けメモを書いてから、一度がっくりと項垂れた。探偵が不在であったことは残念でも、こうしてうたた寝をした上、後味が悪いという意味の悪夢の後で、羞恥に染まった顔を見せなくて済んだのは幸いだった。
美由紀は深呼吸だかため息だかわからぬものを吐き出してから、垂れ下がる髪の隙間から青い空を盗み見た。
*
松枝に言われるまでもなかった。
探偵とは、恐ろしいものだ。物語の秘密を暴く存在、それが探偵だ。
それを美由紀に対して明文化したのは松枝だったが、美由紀はそれ以前に感覚としてそれを理解していた。そしてそれを認めきれないのには、青臭くて若者らしい思慕があるからだ。
秘密を暴く存在に、誰しも最初は秘するだろう恋慕を抱いてしまったら、それは死活問題他ならない。
だから、美由紀は懲りずにタイミングを計って、幾度もその話題を蒸し返す。それが自分にどんな結果をもたらすか熟考するのを忘れてまでも。
「松枝さん、私思うんですけど、探偵にだって秘密にしたいことはあるでしょう?」
きっと必死で情けない顔をしていると、鏡を見ないでもわかった。それでも美由紀が表情を引き締めないのは、美由紀なりにこの青年に対して甘えているからだった。
「そりゃあそうだね。フィクションの探偵はたいてい謎が多い」
この青年はいつどんな話題を出しても、少しも動じない。心の底がどうかはわからなくても、表情はほとんど変えなかった。
その前と今とその少し先もきっと、松枝は同じ顔をして、時に少しだけ口の端を上げたり目を細くしたりするだけで、ほとんど揺らがないのだろう。
その安定感が美由紀を甘えさせ、いつもに輪をかけて大胆にさせる。
「その秘密は、誰が暴くの?」
心の奥を紙一重で隠そうとするような、聴く者によってはほとんど明け透けな問いかけを、美由紀は口にした。
松枝は能面のように切れ長の瞳を僅かに伏せた。
「…誰がって、決まってるさ」
その答えがいつだって自分を追い込むものだと知っていても、あるいは知らなくても、美由紀は松枝に対して確かに無防備になる瞬間があった。例え友人であっても、異性に対してはある程度の警戒心を持つべきだと思っているのにも関わらず。
結局、松枝が口にした答えは、今度もやはり美由紀に深い深い溜息をもたらした。
「それ以外にはないよ」
からかうような調子でそう言うと、日頃表情が乏しい松枝にしては珍しく軽やかな声で笑った。
松枝と顔見知りになって数年、こうしてよく話をするようになってからは一年程経っているが、未だに美由紀は松枝の感情の振れ方にわからないところがある。それは彼が殊更に表情を変えないからだとか、口数が少ないからだとか、そういう見かけのせいもあるが、それよりももっと深い、感情のスイッチボタンというのが見えないことがあった。しかし、そう思うのとは逆に、無表情の中に喜びや不機嫌などの感情の機微を見つけられることがあって、案外わかりやすいかもしれないと思う部分もある。
美由紀は温くなったアッサムのミルクティーを口に含みながら、変わった人だ、と結局一言で松枝を評することにしてしまった。その一言に、いい奴だ、とか、いい友人だ、とか、いろいろな意味を込めながら。
美由紀は松枝の評価を新たにしながら、次の質問をしてみる。
「ということは、暴かれない秘密はない、ということですか」
質問というよりは、どこか諦めを含ませた上での確認だった。松枝は美由紀の言葉に少しだけ考え込むように黙ってから、短髪の項をかきながら口を開いた。
「ある、と思う」
「え」
意外な返答に美由紀はまた無防備に、口を開けたままの情けない顔をしてしまう。松枝はそんな美由紀を見てもやはり目立った表情の変化は見せず、ただ微かに目を細めた様子はそこにどんな感情があるのかよくわからない。ただ、何らかの感情が作動していることしか、わからなかった。
「すべてが暴かれるわけではないと?」
「うん。そう思う」
「・・・暴かれない秘密って、どんなものでしょうか」
美由紀は期待を胸の奥に秘め、けれど見るものが見れば黒く半透明の瞳にある心情をはっきりと映しながら尋ねた。生憎と美由紀が頼りにした男は、美由紀の目をまるで心情のスクリーンであるかのように見ることができる。
松枝は首の凝りを解すように幾度か握りこんでから、美由紀の瞳を真っ直ぐに見詰めた。切れ長の目は美由紀のものとも、ある人物が持つ大きくて茶色い目ともまったく違う形をしているが、美しい造作には違いなかった。一閃の光が暗い色の目と白目に走る様子が、特に。
「物語の結末に関わらない秘密は、暴かれない」
暴かれる必要が、ないからね。
松枝はそこで言葉を切って、手元の真っ黒な珈琲を手に取った。
謎めいた言い回しで終わってしまった言葉を、美由紀はその聡い頭の中でぐるぐると回転させて後、暴かれないという選択肢の恐ろしさに目の前を暗くした。そして、美由紀が身の内に隠した筈の恐怖も、松枝は大きな黒い瞳を見るだけで手に取るようにわかってしまうのだった。
*
関東の桜のほとんどが散り、鮮やかな若葉色に変わって久しい。
榎木津は桜の季節になると決まって風邪を引いたり気が塞ぎやすくなる少女の姿を思い出して、というよりここ最近は年がら年中思い出していて、季節の移り変わりを歓迎した。しかし、同時にまだ早いと春を引き止めたくもなる。
ぽくぽくと革靴の底を鳴らして早足で向かうのは自宅だった。友人が営む古書店に顔を出してきた帰り道である。
梅雨の晴れ間くらいの気温はある暖かい日だった。上着など着ていられず、通り過ぎる人の多くがそうしているように、榎木津も長袖のシャツを肘の辺りまで捲っている。
桜が散れば梅雨が来て夏になる。
天候や風景で季節を意識した次の日には次の季節の気配がある。面白いほどころころと日付が変わる。あしたには冬になっているんじゃないかと思う。
美由紀みたいだ。
子供だ女の子だと思っていたら大人の女性と寸分違わぬ顔を見せることがある。少女たらしめるものが白いシャツに紺のリボンとプリーツスカートだけになる瞬間がある。では私服であればどうかと言えば、まだあどけない勝気さを込めた目で睨み付けられたりもする。まだ子供、でも大人、今日は子供、明日はどうか。
子供に手を出す趣味はなかった。子供は大人が見守り導くべき存在で、大人の我欲、それが如何に純粋な例えば愛欲であったとしても、ぶつけたりしていいことではない。榎木津にとってそれは道徳というよりもいっそ表層意識に上がることのないくらいの常識だった。その常識は榎木津の中で絶対に揺るがない。
子供とは恋愛はできない。恋愛なんて、どんなに美しい語彙を並べて語ったとして所詮は我欲だ。子供は子供と、恋愛とは何たるかを勉強すればいい。誤って子供から恋愛感情を向けられたら、そこは臨機応変に庇護すればいい。練習台にでもなればいい。決して我欲はぶつけずに。
榎木津は、美由紀の感情をある程度知っている。初恋なのかもしれないし、そうでないのかもしれないけれど、とにかく恋愛感情によく似た熱を、彼女の視線や仕草から感じていた。
彼女が子供であるばらば、自分は練習台にでもなればいい。それは我慢をしているとか待っているとかいうよりは、とても自然で、あるがままの感情だった。
しかし、どうにもこの所、美由紀の恋情に引きずりこまれることがあった。思いのまま触れずにいられなくなる瞬間がある。子供には、絶対に自分がしないであろう反応を引き出されてしまう。
美由紀の一瞬の表情に、ゴーサインを見てしまう。
美由紀は言うまでもなく未成年だが、この場合年齢というのは関係ない。それは法律という秩序を保つには便利な住み分けだが、個人レベルで見るならば何も律儀に生きた年数で決めることはない。十代でも十分一人前の覚悟をする人もいれば、いくつになっても子供のような人はいる。
美由紀はどうだろうか。
美由紀に対して、自分が恋愛感情を抱いているという自覚はあった。ただ、それは酷く穏やかな感情だったから、強く訴える必要を感じなかった。恋人同士でなくてもいい、顔を見たり話をしたり、一緒に出かけたり、そういうことができるのならば、いわゆる恋人同士としての交際は後回しでいいと思った。
そうだったのに。
時折見せる大人の表情に、子供には反応しない欲求が、熱が確かに呼び起こされてしまう。次の日には子供のような無邪気な顔を見せられて、燻る熱はエネルギーをためたまま放置される。
どうしたものかな。
榎木津探偵は、春の気候に逸り、それでいて青空に浮かぶ白い雲のように暢気に、自身の恋の処遇を考えた。
*
つい先日のことだった。
「ねえ探偵さん。秘密ってありますか?」
たまたま私室から出てきたら美由紀が来ていて、寝ぼけ眼で挨拶もそこそこに尋ねてきたものだから、榎木津は受け答えするのにいつもよりも本の僅か時間が必要だった。といっても
「意味がわからない」
という答えにならない答えだったが。
「探偵とは秘密を暴くもの、という話を最近聞いたもので」
なるほどその通りだと思ったから、こくんと頷いてみせた。美由紀の頭上には、過去にも同様にして視えたことのある青年の顔がちらちらと浮かんだ。どうも最近、この男の顔を見る機会が多い。
「なら探偵さん自身の秘密はどう暴かれるものなのかと、思ったもので」
美由紀の表情を見れば、ただ好奇心から問うているのがわかる。
互いにある種の想いを抱いていながら未だ一方通行のままでいる二人がするにしては、鈍感すぎる応酬だった。
「そんなこと、君が聞くの?」
自分でも何を言いたいのか整理できず、恨みがましいとも言える台詞を口走ったことが苦々しい。
美由紀は表情のない猫のような上目遣いで榎木津を見ると、はあ、と生真面目な、それでいて気の抜けた返事をした。
「ないよ」
秘密はない。美由紀が知りたいと言うことなら、何だって教えてやれた。本心からそう思う。
『あなたは誰に恋をしていますか?』
聞けるものなら聞いてみよ。君にならば、答えてあげる。
少し意地悪な気持ちになっていたのは、寝起きだったせいかどうだったか、答えた時の美由紀がどんな顔をしていたのかも、よく覚えてはいない。
『君の秘密はいつ暴けばいい?』
そして今、探偵は声には出さずに、事務所の来客用ソファでたった一人寝こけているらしい少女に尋ねた。答えなんて返る筈がなく、当然求めてもいない。
応接へ繋がる扉を開いた瞬間目に入ったのは、プリーツスカートの紺と開襟シャツの青いほどの白だった。それを纏う少女はソファに腰掛けているもののいやに静かで、近付いてみて初めて瞼が閉ざされているのに気付いた。
美由紀がここを訪ねてくるのはほとんど習慣のようになっていて、何年も続いていればいくら他人の家であっても慣れてくるらしく、あとは寝ても寝たりない年齢ということもあるのか、昼寝をしているのを見るのは初めてではなかった。(彼女が来るのは大概探偵社が休みの日であるから来客の心配もない。)
耳をすましても事務所の中から物音がしないところを見ると、寅吉も出ているらしい。眠る少女に留守番をさせるほど愚かなことはしない筈で、屋上で洗濯物でも干しているのかもしれなかった。
何にせよ、もう少し警戒心があってもよさそうなものだと、学生鞄をクッションのように抱えて眠る少女を見やる。
今眠る姿を見れば、子供、と思った。
大人か子供かと問われれば、目の前の高等学校の制服を着た少女は子供としか言えない。もう高校も最高学年で、十七八歳ともなれば容姿の上では大人と変わらないが、どこかしらまだあどけない。白い靴下の脹脛の細さなどは大人のそれではどうしてもないのだった。
榎木津は想像する。もしも今自分が学生であったならば。
きっと、躊躇うことなく口説いただろう。
正々堂々とデートしようと誘って(それは今でもやっているが)、いい雰囲気になればすかさず手を握って、あわよくば人気のないところにでも連れ込んで。遠い思い出に浸るようにイメージしてみれば、それは過去に実際にあったのではないかと思えるほど現実感があった。恥ずかしがる表情や減らず口の台詞までも簡単に思い浮かぶ。
しかし、現実は榎木津はもうとっくに学生なんて身分ではなく、二十代でさえなく、立派過ぎるほどに立派に成長しきっていて、学生時代の自分を子供だ未熟だと思える程度には大人になっていた。だからこそ、榎木津自身が己を保つ為に抱える秩序と、穏やかでいて扱いづらい、理性のもとから野放しにしてはならないだろう感情との折り合いをつけられる。
追いかけられて横に並ばれて、ではどう並ぼうか。榎木津にとって、それは愉快な難問だった。
手を取ろうか。距離をとろうか。どれくらい空けようか。
幾らかロマンティックに過ぎるイメージ図は趣味ではなく、ぶすっとため息をつくがつまりはそういうものだった。
物思いをさせる当人は春の陽気に気持ちよさそうに居眠りをしていると思うと、何だか少し憎たらしいような気もした。
耳に微かに届く美由紀の寝息は深く、抱え込まれた学生鞄は酸素を身体に循環させるのにそってゆっくりと浮かび、沈む。興味深く眺めていると、美由紀の身体が傾いてきているのに気付いた。呼吸を繰り返す度、少しずつ上半身が真横に倒れていく。少しずつ、少しずつ、じれったい速度で。横には誰も座っていないのだから、思い切り寝ころべばよいのにと思うが、意識のない者につっこみは聞こえない。
電車で居眠りをしている人みたい。美由紀の姿勢が場違いで、律儀で真面目な性格も反映されている気がして、声に出さずににやにや笑う。笑っている間にも、またずずっと傾いた。
榎木津が美由紀の隣に腰掛けたのは、勝手に脚が動いたからだ。
少し間を空けて座れば、待つまでもなく美由紀の頭が肩にことんと落ちてきた。
その感触にしみじみと感じいるものがあって、首を降り曲げて美由紀の顔をのぞき込む。
最初に心臓がびくりと跳ね上がり、
次には疑問が、どうやって先ほどまであんなに穏やかにこの少女を眺められていたのだったかを考え、それから、鼓動を宥めるつもりがあべこべに煽ってしまうことになりながら、美由紀の寝顔を眺め続けた。
意志の強そうな眉は切りそろえられた前髪の下に隠れ、今は穏やかな表情をしていた。頬は大人の女のものというよりふわふわとした質感で桃色が濃く、その頬を飾る睫に、孔雀の羽で作った黒く光る扇を思い出した。
もっとも彩りの強い唇を見詰めることに一瞬だけ躊躇いを感じたのは、惚れた弱味だったのかもしれない。そこは血を透けさせ滴ってきそうで、目を当ててしまえば離せなかった。花弁二枚の花だとか、熟れて弾けた果実だとか。そういったいかにもエロティックな表現をするのに申し分がない。
その時感情を占めた欲求を、榎木津はそりゃあそうだと熱の向こうにある冷静な視線で眺めた。
恋しい人の唇を目の前にして、口付けを厭うものがどこにあるだろう。
秘密ってありますか?
いつかの美由紀の問いかけに、榎木津は、無いと答えた。
嘘ではない。問われれば答えられる事実を、秘密とは呼ばないのだから。
『私には秘密があるのに、探偵さんにはないの?』
それは遠まわしな恨み節でもあった。もちろん、美由紀は否定するだろうけれど。
必要以上に美由紀に顔を寄せていたのは、ほとんど無意識だった。
街の喧騒は遠く遠く、春風が窓を揺らす音もせいぜいが子守唄のように優しく、同じリズムを保つ寝息は榎木津にしか聞き取れない。
二人しかいない空間で、一人しか知らない時間だった。
ふつりと、思考がすべて白になる。
秘密になってもいいし、秘密にならなくてもよかった。
ただ、榎木津はゆっくりと動いたから、美由紀は目を覚まさなかった。
艶々と赤く光る唇をじっと見詰めながら、細く呼吸する隙間を塞ぐように、そこに触れた。
互いの唇のほんの先が触れただけというのに、じんと痺れたことに少し驚いて、離す。
それからはただ、触れたいと思う方法で、触れた。夢中でいるようで刺激になることはしないという加減を弁えながら、小さく柔らかな唇を愛撫した。
下唇を食んだ時と、上下の唇にできた隙間を舌先で撫でた時には、その弁えも霧散しそうになって
好きだ、君が。
絶対に声にはしない言葉を、榎木津は幾度もその唇に、無言で告げた。
横に寝かせても目が覚めない少女を、立ち上がって1メートル離れて眺めれば、やれやれと呆れるような気持ちが過ぎる。春は誰だって眠いのだと、昔から人々は開き直っているから仕方ないのかもしれない。しかし、自分が誰に呆れているのかと問われたら、答えは自分自身になのかもしれなかった。
また少し離れて探偵机の縁に寄りかかり、いつもの習慣で灰皿脇の煙草を手探りしてから、止めた。
今この時間、榎木津が事務所に居ることを、結局誰も知らない。
寅吉が戻れば知れるが、すべては過ぎてしまっている。煙草を吸わなければ、煙の匂いも残らない。このまま外に出れば、美由紀は榎木津が事務所に戻った事実さえ知らないままだった。
先の数分の間にあった出来事を誰も知らないのは明らかで、榎木津が誰かに知らせるという気もまったくない。美由紀にだって教える気は無かった。
秘密ができた。
秘密だと自覚し、秘密にし続けるためには、隠さなければならない。
その子供っぽさに笑えてくる。
誰もいないのに、気まずさと照れ隠しに、口を押さえた。
ああよかったと、榎木津は思う。
探偵の秘密をとらえる視線はたったひとつだった。ひとつくらいなら許せないこともない。
無限の影響力と無力さを併せ持つ、たとえば蜘蛛の巣の真ん中の――その視線と重なるだろうかと、榎木津は窓から青空を盗み見た。
(終)
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