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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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HN:
行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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★探偵×女学生
注)2010年のアンケート企画より「ソフトsm」なお話です。
注)性描写あり。嫌がる美由紀さんを榎さんが無理矢理縛ってどーのこーのするお話なんて読みたくないわ!という方は静かにブラウザバックがオススメです。
注)欝というかちょこっと病んでるかもしれない二人なんて見たくないわ、という人も同上。
注)意味がわからないかもしれない。←
注)つまるところ仲良しな二人です。仲良しですとも。



 白い陽光が差し込む台所は、シンクも食器も磨き上げられ掃除が行き届き清潔で、匂いさえも少し前に煎れた紅茶の甘い香りが、あるいは春の香りだろうか、それに満ちている。探偵事務所であり住居も兼ねている空間の中でも、台所はもっとも家主が関心を示さず秘書のような給仕のような青年に管理を任せているから、家主の破天荒振りを微塵も感じさせない秩序と穏やかさがあった。
 春はどこまでも美由紀の後をついてきて足下に追いつき追い越され、恋人の住居にたどり着いた時には、春はとっくにそこを占拠していた。

 嘆かわしいけれど、四季の移り変わりを嘆いていても仕方がない。美由紀は思い直して、手元の作業に戻る。
 緑茶を煎れるのに最適な手順があるように紅茶にもルールがある。以前教えてもらっていたが、寮ではあまり飲まないために、間違いのないようひとつひとつ思い出しながら用意していた。
 湯を沸かす、茶葉を用意する、茶葉を蒸らす、抽出する。美味しい紅茶になる抽出時間をカウント。

 恋人は、十を数えた時に背後に現れて、

 十三を数えた時に美由紀を抱きしめた。
 十四、十五、
 十六をカウントする時、髪を除けられ耳の後ろを吸われ、
 十七で舌先を感じて、
 十八、十九、二十、
 強い腕に捕らわれたまま、コンロ脇の、窓からの日差しがキラキラとした壁際に追いやられた。
 咄嗟に縋り付いた壁は油汚れも何もなく、微かに日差しの匂いがした。
 
「紅茶、はいりましたよ」
「・・・後で飲む」
「濃くなっちゃいますから」
 退いてとは言わずに、背後から壁を突く腕を軽く掴んで意思表示する。すると、男の腕を伸ばした長さ分だけあった美由紀の空間は、肘を曲げた長さ分に狭まってしまった。
「いい、別に」
 湿った低い声が近付いて、耳の奥がぼうとする。
「冷めちゃいます」
 美由紀としては、せっかく鮮やかな赤にはいりそうだった紅茶が渋くなってしまうのは悲しかった。
 丁寧に丁寧に、時間をかけて、煎れたのに。
「・・・珈琲も、緑茶も美味しかった。もうお腹いっぱいだ」
 そうなのか。美由紀は恋人の言い分に納得して、紅茶の最適抽出時間については諦めた。
 もっともの話だったのだ。
 美由紀が探偵社を訪れたのが昼過ぎで、それから美由紀はすぐに、珈琲をいれ、それを飲み終えたのを見届けるとすぐに緑茶を煎れた。湯呑みが空になって、
 ああ茶を煎れなければ、そう思って、
 ティーカップを探したが何故かそれは珈琲を一滴分湛えながら流しの中にあり、何故だろうかと考えながら洗って、ティーポットの脇に置いた。
 不思議なことは何もなかった。
 わからないことそのものを不思議と呼ぶのだとしたら、不思議だらけだったのかもしれない。
 
 壁と恋人に挟まれて、制服の上を掌が這い回るのを感じる。
 恋人が自分の身体に触れるそのやり方がいつもと違う気がしたが、ではどんなのがいつも通りというのかもわからない。ワイシャツのボタンをはずす長い指は、もしかしたら、いつもより落ち着きがないかもしれなかった。
 薄い硝子製の何かの形を確かめるように撫でた次には、その硬いようで脆い透明な膜を割り砕くように力を込める。
 痛くて、熱い。

「何か、怒ってるんですか?」 
「・・・怒ってない」

 その声は、触れるやり方に反して確かに穏やかで、美由紀は恋人が怒ってはいないのだと安堵し、ただ何故怯えているのか怪しんだ。それとも、何か悲しがっているのだろうか。
 制服のスカートからスリップを引き抜かれ、素肌が春の外気と人の熱の温度差に戸惑う。戸惑いもつかの間で、性急に乳房を掴まれて、その芯に生じた痛みに身体が震え悲鳴が漏れた。
 大きな手とその指が女にない力強さを抑えず肉と皮膚の曲線を絶え間なく歪ませ、その為に痛くて熱くて膝が震えるごとに、
 純正の快楽が湧き出て、美由紀は怖かった。

 強く、長い腕が、
 絡みついて怖い。

 じわりじわりと背筋が冷える。恋人の身体を背後に感じてなお、冷えていく。
 目を見開けば、白い壁が目の前数センチに迫っている。
「え?」
 当惑の為に出た自分の声は酷く間が抜けて聞こえた。
 視界がいやに狭い。顔の横には、退路を閉ざす恋人の腕がある。
 美由紀はぞっとして、身体を捩った。
 怖い。
 何故怖い?怖い。
 触れているのは恋人で、その恋人はこれまでも何度も自分の身体に触れたことがある。最後の一線は越えていなくとも、触れられること自体は慣れてきていた。
 怖がる理由は、ない。ないというのに。
「・・・や、やめて」
 顔の横の腕を引っ張るが、恋人は何も答えなかった。逆の手で、己に絡みつく腕をはずそうとするが、強い力で反抗される。
「や」
 自由になる範囲で必死に恋人の手を止めようとするのに、僅かも言うことを聞かずに皮膚の上を彷徨って、触れることで身体を拘束し、さらに指先が乳房の先を引っかけたり指の腹で押し潰されたりする度、恋人の手や腕をはがそうとする手から力が抜ける。抵抗する力が削がれていくことがまた怖い。
 ここから逃れたい。
「や、めてっ」
「君の言うことは聞かない」
 断固とした物言いだった。恋人らしい物言いなのに、美由紀は似合っていないと思った。確か、もっと、こういう時恋人は楽しそうにしていたはずだった。邪魔だ、と呟いた声も、どこか追い詰められている。
 壁についた腕が見えなくなり、耳の後ろからシルクを思わせる絹ずれの音がした。この隙にと美由紀は恋人から逃れようとするが、裸の上半身にはその身に食い込むほどに片腕が絡み着いて、容易く抑え込まれてしまう。
 視界の端にちらりとシャンパンゴールドがはためいて、一瞬だった。
 恋人の手を止めようとしていた手を逆に捕られ、顔よりも高い壁に押さえつけられる。
「痛っ」
 手首を掴む力は僅かに緩むが、決して自由にはならない力だった。すぐ様もう片方も、
「何をし、やっ、やだ!」
 両手首が頭上で捕らえられると、すぐに恋人は片手でそれを束ねて、また金色の布が舞うのが見えた。
 ――ネクタイだ。
「厭だ」
 何をされるのか予測がついて零れた声は、心の底から叫んだはずが、ただ弱々しく呟くようにしか響かなかった。

 片手と、恐らくは口を使って器用に縛られた両手首は、少し痛いほどにしっかりと結ばれて解けない。それをさら恋人が片手で壁に押さえつけるものだから、逃れようのないことは明らかだった。
 金の紐が、自分が反応する度、惑わすようにゆらゆらと揺れる。
 下着の中で恋人の指先が遊んで、濡れた音が耳を侵す。
 快感が脊髄を登りつめ下降し、縛られた指の先から革靴の中の爪先まで全身余すところなく広がる。
 快楽のためにだけあるような小さく不可解な箇所ばかりを攻め立てられて、息がもたない。激しく呼吸を繰り返しているのに、苦しい。
 背後から聞こえる熱く低い吐息に、重なるのは熱を逃す為だけにしている長い呼吸音で、ああ声さえ出せないと思うと、美由紀はまた悲しくなる。
 少しだけ絶望する、というのは可笑しな言葉だが、そうだ。

 縛られたくない、捕えられたくない。
 そうだというのに、
 何も自由になどならない。
 その証拠に、美由紀が関知しない幾筋もの雫が、太腿をつたう。
 ああきっと、縛られていても縛られていなくても。 

「あ・・・くっ」
 快楽に仰け反れば後頭部に当たるのは恋人の身体だ。甘い煙草の匂いがした。
 上向いた視界の中に、三つの手、三本の腕。
 頭上に掲げられた両手の指は寒く、圧迫される手首さえもどこか冷たい。冷たい理由は、抑え付ける大きな手もまた冷たいからだ。
 背中の熱と、痛いことに似た快楽と、聞き覚えのある愛しい、確かに愛しい呼吸音と、冷たく青白い手が、
 縛り付けているのは――。 

 急に手首が楽になった気がしたのは、気のせい意外の何でもなかった。ネクタイが解かれた気がしたのは、ただ快楽物質が成す勘違いだろう。それでも美由紀は、
「はっ、あ、ああっ」
 水桶から水が溢れてそれがひっくり返ったような快楽に、すべてを支配され身体が崩れた。
 二本の重圧で受け止められて、白い壁が随分と遠ざかったのを知る。
 白い壁に走る白い日差し。
 いい天気だなあと、酷く暢気な感慨を抱いた。 


「探偵さん・・・」 
 身体のどこにも力が入らないのに、降ろされた手は少しずつ感覚を取り戻していく。そして同時に、未だ息は整わなくても頭には血が巡り始めていて、胡坐をかいた上で美由紀をぎゅうぎゅうと抱きしめている男に、物申したいことがいろいろと浮かび始める。
「これ、早く解いてください」
「・・・うん」
 非常に素直な榎木津の応えに、美由紀は随分しばらく振りに榎木津の声を聴いた気がして思わず首だけで振り向いた。榎木津はギリシャ彫刻が不満を言い出したらこんな顔をするだろうという顔で美由紀の顔を覗き込む。
「治ったのか?」
「・・・は?」
「君の持病だ。五月病だ。・・・まだ五月じゃないが、三月四月辺り病というのは面倒くさいから五月病でいいだろう」
 榎木津の言うことに、美由紀は僅かながら身に覚えがある。つまり、自分が油断すると陥る、春の病だ。
「・・・お蔭様で」
 非常に気まずい気持ちで答えると、榎木津は漸く美由紀を抱える手でネクタイを解いた。両手首は感じていたよりも圧迫されていたのか、離れてもまだ揃いの赤い帯がかけられている。手首を気にする仕草をすれば、痛いのかと後ろから声がした。
「いいえ」
「そうか」
 それからまたぎゅうぎゅうと抱きしめられて、裸の背中や腕を包む体温が心地よくて、微かに眠気を覚えた。
 腕に甘えて瞼を降ろしてしまいたくなるが、それではいけないと思った。
「ごめんなさい」
「ん」
「この時期はどうも、何と言うか、表現が難しいんですけど」
「何」
「・・・心が離れる、気がします。でも、今」
 狂っていたわけではないと思う。記憶もあるし、いつもの通り生活していたし、人との会話も正常にこなしていた。ただ、数分前までの思考の道筋が思い出せなかった。
 人からすれば些細な歪みかもしれない。美由紀自身にも数値化や言語化はうまくできそうになかった。
 ただ、
「我に返りました」 
 感触でわかる。心が少し窮屈になる感触だ。
 離れていた心ごと、今はぎゅうぎゅうと抱きしめられている。胸の上で交差する頑丈で窮屈な拘束に、項垂れながら触れる。
 情けなくはあっても、今はまだ、この拘束に縋りつかなければ。
 触れた腕の持ち主は叱りつけるように、項にきつく歯を立てた。


(終)

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