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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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行葉(yukiha)
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谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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注)現代、学パロです

・時代は平成。中等部と高等部を備えたでっかい学校が舞台
・学年とか受験のこととかはあんまり考えないでください。どうかお願い。
・現代のわりに口調は時代がかっているとか。

学パロ第一弾は古本屋夫婦でーす。

 


 


 十二月二十四日、今日は世間的にはクリスマスイブであり、学生にとっては二学期最終日である。つまり、明日から短くはあるが貴重な冬休みが始まる。
 凍えるように寒い体育館での終業式を終え、学生達は昼前には解散させられていた。千鶴子が歩くのは、それからしばらく経った校舎二階である。
 向かうは校舎二階奥の図書室。
 半休日の図書室の利用時間は十二時半までと決められているから、そうなれば「図書室の主」も出てこざるをえない。主とはいえ、一介の学生に他ならないのだから。
 日頃の喧噪が信じられないような校舎の静けさを楽しみながら、千鶴子は彼にかける最初の言葉を探していた。
 千鶴子と彼の関係に、緊張する必要はなかった。幼なじみというほどの付き合いはないのだが、互いの両親が友人同士で、どんな事情なのか深く突っ込んだことはないが彼の妹は千鶴子の家で暮らしている。兄の方は長く祖父と暮らしていたらしいが、祖父が亡くなってからはずっと一人暮らしだ。休日にはその祖父が残したという古書店を開き、売り物の本をほぼ私物化して読みふけっているという変わり者である。
 感覚としては、遠い親戚が同じ学校に通っているのに近い。彼の妹の方は肉親同然なのだが。
 とにかく、千鶴子にとって彼、中禅寺秋彦は、改まる必要はない相手なのだった。
 しんと冷えた廊下を行き止まりまで行く。図書室の中からは物音ひとつしない。白い引き扉をがらがらと開けた。

 
 扉を開けた瞬間に聞こえてきた騒音に、千鶴子は反射的に左手にある貸し出しカウンターを見た。
「・・・こんにちは」
 木製の椅子を倒した人物は、すぐに見つかった。
「・・・君か」
 半分腰を浮かした体勢の中禅寺が、親の仇を前にした侍のような顔で千鶴子を見ていた。
「今日は12時半で閉めますよ」
 倒した椅子を直しながら、澄ました声で中禅寺は告げた。そのまま脱力するように椅子に腰掛ける。普段冷静沈着な男がどうして椅子を倒すことになるのか千鶴子にはわからなかったが、特に気にもならなかった。よくよく見れば微かに頬が赤いようにも見えたが、それも気のせいかどうか判然としない。
「もちろん知ってます」
「じゃあ何か?」
 視線だけぎらりと向けられた。顔はカウンターの内側へ俯いているが、そこには読みかけの本があるのに違いない。この上なく無愛想な態度だが、これが中禅寺の常態だと知っているから、今では別段気分を害することもない。
 千鶴子は元々細かいことは気にならない質だった。大らかな性分ではあるが鈍感ではないので、異変には気付く。気付いて、大したことではないようなら、気にしない。他の同級生から良くも悪くも一目置かれる中禅寺に、千鶴子が肉親のことは関係なく割と親しくしていられるのは、そういった千鶴子の性格によるところもあった。
「それはないでしょう。せっかく、私達のかわいい妹君からメッセージを持ってきたって言うのに」
 そう言うと、中禅寺はこの兄妹得意の右眉をくいっと上に持ち上げる表情をした。顔かたちは似ていないのに、こういう仕草はそっくりで少しおもしろい。
「敦子が?ていうか、面倒なら伝言なんてまどろっこしいことしないでメールでいいじゃないか」
 中禅寺の減らず口は想定内ではあったが、やはり愉快ではない。
「・・・忘れていたの」
「まるで関口君だね」
「だいたい、あなたに昨夜メールを送ったとして、返信があるのはどうせ今頃でしょう?」
「過去にそういったことがあったとしても、内容やら送り主やらによっては僕だってすぐに返すさ」
 中禅寺は淀みなくそう言いながら、カウンターの内側の手が動いて、本の頁をめくったのがわかった。
「本当に、ああ言えばこう言う」
「お互い様じゃないか」
 そう言って、にやりと笑う。
 なんというひねくれ者だろうか。
 心の底にまでずっしり溜まったため息を、これ見よがしに放出させた。 
 中禅寺が秀才で毒舌で口八丁なのは周知の事実であるが、彼の毒素は主に男友達に向けられることが多い。女性に対してはどちらかというと紳士的で優しいのだと、千鶴子は友人から聞いたことがあった。中禅寺に優しく紳士的に接されたことなど、千鶴子は記憶にない。初対面のその瞬間から、既に中禅寺は千鶴子に対して渋い表情を見せていたし、どちらかというと突っ慳貪な印象だった。
 嫌われていないことは知っている。
 ただ、両親の友人夫婦の娘で、実妹の姉的存在、特別愛想を振りまく対象ではない、そういうカテゴライズをされている。それだけなのだろう。

「意地悪だわ」

 大人げないと思うけれど、悔しかった。
 つまらない小競り合いに負けただけだというのに、許せない。
 中禅寺は思いも寄らないだろう。敦子の提案を聞いた千鶴子が胸を高鳴らせたことや、携帯にかけようかどうか迷って、結局今日になったこと、図書室まで来るのに密かに緊張していたことも。わざわざ緊張しながらもここまで来たのは、単純に中禅寺の顔を見たかったからということも、絶対に知らない。
 千鶴子がそれきり黙ってしまったせいか、中禅寺はゆっくりと顔を上げた。
「千鶴子?」
 賢そうな切れ長の瞳が揺れ、徐々に顔に広がる戸惑いが、薄い唇を開かせた。
 困ればいい。
 例えさほど自分に関心がなくても、目の前で腹を立てられたらさすがの中禅寺も多少は面倒くさいとは思うだろう。
「敦子が、明日お兄ちゃんも呼んでもいいかって」
 中禅寺は不思議そうに顔を傾げた。
「明日?」
「クリスマスでしょう」
「ああ、でも僕は」
 中禅寺が言いかけるのを、千鶴子が遮る。
「わかってる。でも、お祈りをするわけでもないし、我が家にはクリスマスらしいものなんて置いてないわ。ただ、母が張り切ってるから、ご飯だけでもどう?って」
 千鶴子が珍しく早口になったのは、中禅寺を説得しようと用意していた台詞だったからだ。もっとも、もっと丁寧に穏便に話すつもりだったのだが。
「面倒くさいのなら、無理にとは言わないけど」
 他の誰にも、自分のこんな声を聴かせたことはないだろう。詰まらなくて不貞腐れた、しかし子供というには語彙を知った、だからこそ大人げない口調だった。自覚するほどに情けなくて、もういい加減帰ってしまいたくなる。
 さぞかし不快な顔をしているだとうと思いながら中禅寺を見れば、千鶴子の予想は外れていた。

「そうか・・・悪かった。謝る・・・」
 
 一瞬、聞き間違いかと思った。
 しかし、耳が瞬間的におかしくなってでもいない限りそれは間違いなく、ぎりぎりと絞り出されたような謝罪の言葉だった。
 中禅寺の伏せられた視線の先は、もう本に向けられてはいない。しょんぼりとした風情で、千鶴子の足元の辺りを見ていた。

「・・・吃驚しちゃった・・・」
「・・・何にだい?」
「やけに素直なものだから」

 中禅寺は不服そうに眉をしかめるが、千鶴子はまだ衝撃から覚めない。
 自分の、幼い子供のような不機嫌に、中禅寺が折れるなんて。
「好意を茶化して無碍にするのは善くない。君が僕のために、寒い校舎の最奥の図書室までわざわざ脚を運んでくれたというのは、わかっていたんだ」
 僕は口が悪いな。
 誰にも物怖じせず立て板に水の如く喋る男の発言とは思えなかった。しかし確かに、いつもとは様子は違っている。
「礼を言うべきだった。いや、言いたかったんだ」 
 何だろう。千鶴子は注意深く中禅寺を見た。いつもとは全く違うのだ。
 少し古風で偉そうな口調も、仏頂面も、姿勢のよさも変わらないと言うのに。さすがの千鶴子も今回は気にならないのではなく、気になっているのにわからない。
「ど、どうしたの?」
「今、君を怒らせるわけにはいかないんだよ」
「え?」
 中禅寺は何も答えず、カウンターの内側に目をやった。おもむろに本の頁をばららと開き、そこから何か取り出したようだった。
 ぎいっと椅子を押して立ち上がったその手には、本と、

「明日、伺うよ。おばさんに、料理楽しみにしてるって伝えて」
「え、はい」
「敦子には、呼んでくれてありがとうって言ってくれ」
「・・・はい」
 
 カウンターをぐるりとまわって、千鶴子の左手側、カウンターの外側に腰をかける格好になった。

「千鶴子も、ありがとう」
「・・・どういたしまして」

 真面目な顔で照れているのを隠しているらしかったが、千鶴子はとっくに、この男の誠実さを見抜いている。
 中禅寺のそういうところをこの上なく好ましいと思うし、彼の周りでも一握りの人間しか知らない美徳として、千鶴子は自慢してまわりたいくらいなのだ。
「図書委員さん、そろそろ閉めないと」
 中禅寺の肩越しに壁掛けの時計を見れば、十二時半を五分過ぎていた。
「掃除は終わってる?」
「汚れていないだろう。どこも」
 床を見渡せば確かに塵は落ちていないが、決まり事のはずのモップを使った形跡はない。要領のいいこの男のこと、適当に塵を拾っておしまいにしたのだろう。
「こういう要領はいいんだから」
「普通だろう」
「じゃあ、行きましょう」
 千鶴子はカウンターに置いていたバッグを肩にかけ、扉に向かった。
 中禅寺の家と千鶴子の家は校舎から出ると反対の方向へ進むから、並んで歩けるのはわずかだった。それを思うと、少し名残惜しい。
 扉に手をかけ横に引けば、鋭く冷えた空気が顔に当たった。寒い、と思わず口から出た。

「千鶴子」

 振り返ると、中禅寺はまだ帰り仕度の何もしていない状態で突っ立っていた。手には本と、表紙の上に乗っているのは、

「明日は、夜に伺えばいいんだよね?」
「ええ」
「それなら、明日の昼間は?君はあいてる?」

 澄ました声に誤魔化されない顔色に、千鶴子は笑い出しそうになるのをこらえた。
「この間、敦子と話していただろう。六本木でやる、クリスマスの展示。あれ、明日までなんだ」

 クリスマスツリーと木彫り人形がデザインされたチケットが、本の表紙に乗っていた。
「行こうよ」

 誰よりも頭がよくて器用で口が達者な男でも、恥ずかしい時の顔色だけは隠せないものなのか。深刻そうな渋面の頬が、赤くなっている。
「敦子と三人で?」
「え」
 ぴくりと右の眉が上がる。
「ああ、まぁ敦子が来たいと言うなら」
 千鶴子はついに堪え切れなくなって、首を横に振ってから思うままに笑った。
 いじめるのはやめよう。ここで中禅寺を苛めるのは愉快だったが、自分が得をすることはない。笑われた中禅寺は、もはや呆然としている。自分の感情や対峙する人物の言動に振り回され過ぎたのかもしれない。
 千鶴子は涙がたまった目の淵を指先でぬぐって、言った。
「秋彦さんさえよければ、二人で行かない?」
 言いながら嬉しくて、頬から溶けるように千鶴子は笑った。
 途端、中禅寺はふいと横を向いて口元を手で隠した。

「・・・千鶴子は狡い」
「やっと気付いたんですか?」

 中禅寺は困っているのか嬉しいのかわからない笑い方をしながら、いいやと答えた。
 日頃小賢しく立ち回る男を相手に恋をしているのだから、これくらいの狡さは許してほしい。
 彼は知っていたのだろうか。
 案外自分が狡いということを、千鶴子は中禅寺を通して知った。いつかそれがばれる時が来るだろうと、期待もしていた。
 そう、期待だった。

「それ、ください」
 差し出されたチケットを、手に取った。

 狡いと言われたその時がきっと、互いが互いを想っていると、認めた瞬間なのだから。

 
 追伸。

「敦子には適当にツリーの飾りでも買っていけばいいだろう」
 中等部を備え無駄にでかい敷地を有するこの学校は、当然校舎から校門までも遠い。中禅寺はなんとなく気まずいのを誤魔化すように、当たり障りのない話を続けていた。相手が千鶴子でなければどんなに気詰まりな相手でも話題は浮かんでくるというのに、上手くいかないものだと思う。
「そうですね」
 千鶴子は終始変わらない。元々感情の起伏が大きくない性質らしく、先のように機嫌を損ねるのは至極稀なことで、ほとんど常ににこにことしている。ただ、今この時に限っては、常よりも楽しそうに見えるのは中禅寺の欲目かどうかは判然としなかった。
 何にせよ。
 ――よかった。
 スムーズではなかったかもしれないが、とにかく、約束は取り付けた。中禅寺は僅かの緊張と、ふわふわとした頼りない感覚を抱きながら、コートのポケットにしまったチケットにそっと触れる。
「まあ、敦子は敦子でいろいろあるみたいですけどね、明日」
 千鶴子の発言に、中禅寺の思考が止められた。
「え?」
 いろいろある、という、思わせ振りな言い方は何事なのか。
「いろいろ?」
「だって、クリスマスだもの」
 そう言って、千鶴子は何か含んだような上目遣いで微笑んだ。本人がわかっているのかどうか知らないが、千鶴子は純情そうに見えて案外こういった意味深長な表情をすることがある。中禅寺は色恋沙汰に器用ではないという自覚はあるが、鈍感ではないのだ。
「え、敦子が、誰と」
 何としてでも聞き出したい事柄なのに、無情にも既に二人は校門に立っていた。
「それじゃ、明日のことはメールで」
 千鶴子はひらりとコートの裾を翻し、中禅寺とは逆方向の帰路を歩いていった。

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