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注意
※「エノミユ再会編」の別案です。随分前に書いたので、先日アップした再会編とはかんっぜんに違う話です。
※美由紀ちゃん、事件直後のわりに元気そうです。
※でも探偵視点の美由紀の描写はこんなんでもいいかもしれない。
※尻切れどころかもはや頭部でぶち切れトンボです。
探偵は男の声と足音によって覚醒したが、一度薄目を開けてみただけで、再び眠ろうと目を閉じることにした。彼にとっては聞きなれた落語家のような調子の話し声と、聞きなれない少女の声。昔馴染みの古書肆の、愛想はないが慇懃な挨拶。「ちゃんとした」客人なのだろうが、主が探偵を起こす様子はない。
探偵助手の益田が連れてくる客人、しかも少女であるらしい、それが僅かに探偵の関心を引き、彼は昼寝を中断することにした。
「やあ」
「榎木津さん、起きましたね」
「榎さん、ちゃんと起き上がって挨拶したらどうだい」
探偵は頭だけ起こすと、四角の卓袱台の向こうから3人の視線が向けられているのを確認した。卓袱台の庭に近いところが探偵の指定席で、床の間に主人である古書肆、探偵の向かいにはその助手、そして探偵の右手側には、痩せた少女が行儀良く座っている。探偵が少女をじっと見詰めると、大きなアーモンド形の目を丸くしてから、やりづらそうに「お久しぶりです」と頭を下げた。
眉の辺りで切りそろえられた前髪の下に、意思の強そうな目。顎のラインでゆるく曲線を描く髪形は、童女の人形のようだ。白いシャツに紺色のワンピースを着ているが、これは学校の制服であるらしい。
探偵は彼にしては珍しく思い出そうとしていた。実際、彼女の顔には見覚えがあった。しかし、学生時代にはいざ知らず、三十路も半ばを過ぎて女学生と知り合うなどそう滅多にあることではない。
女学生。
「あ。女学生君じゃないか!」
さも固有名詞であるかのように、探偵は叫んだ。名前はともかく、いつどこでどうして知り合いなのかは、彼の中できちんと整理できている。勝浦の女学校の事件で知り合った女学生だ。
「呉美由紀さんですよぉ、それじゃ肩書きです」
あまりの言い草に、益田がただちに訂正した。古書肆はため息をつくだけだ。しかし、呼ばれた本人である美由紀は、それまでの緊張をといて、嬉しそうな笑顔を見せた。美由紀にとっては、探偵の言う「女学生君」で正解なのだ。
居間に座っている4人は、この春に起きたある事件の関係者である。その際に、探偵は美由紀を終始「女学生君」と呼んでいた。美由紀自身、探偵が本名を記憶しているなど、微塵も期待していない。どうであれ、彼女にとって今目の前にいる3人の男は皆恩人であった。彼らに覚えていてもらえるだけでも、美由紀は満足している。
「ずっとお礼に伺いたいと思っていたんですが、なかなか時間がとれなくて。春の事件では、本当にありがとうございました」
美由紀は歳の割りに落ち着いた声で流暢に言うと、横髪を揺らして、頭を下げた。いつも不機嫌そうな顔をした古本屋は、常態である眉間の皴を浅くして表情を緩めると、優しい声を出した。
「礼を言われるようなことはしていませんよ。僕らは仕事をしただけだからね」
美由紀はぱっと顔をあげると、いえいえと言いながら、背後から紙袋をとって、中から大きな箱を取り出した。何やら重そうに持ち上げて、それを卓袱台に置く。ごとりと、やはり重量のある音を立てる。
「これ、父の会社の製品で恐縮なんですけど、お土産です」
そう言ってにっこりと笑った。
「何だいこれ」
探偵がその箱の大きさと重量に興味を示して持ち上げる。予想外に重い。
「これ、君がひとりで持ってきたの?」
5キロくらいはあるだろう。
美由紀は屈託なく笑って答える。
「実は、先に探偵さんの事務所へお邪魔しまして、そこで秘書の方に1つをお渡ししたんです。そこから益田さんと一緒にこちらに来たんですが、こちらまでは益田さんに持っていただきました」
「行きは二つ持っていたのか」
「汗かいちゃいました」
気の強い瞳も、笑うと人懐っこい。
ここまで!!!(我ながらひどい)
美由紀が超明るいすね・・・。違和感。
あげようか迷ったのですが、
探偵の美由紀描写と、美由紀の京極、榎木津、益田観について、
あー昔の私はこういう風に考えていたんかー
と、思い出すに至りまして。なんか新鮮だったので、勢いであげました。うへえ。
クモ事件について、美由紀が感謝している人がいるとすれば誰かしらーと思いまして、
そうすると榎木津だけじゃあないんですよね。
京極はもちろんのこと、益田もかなり直接的に美由紀をかばっているんですよね。
はい、益田と美由紀の再会は書く気でいますとも。
★中禅寺夫妻
静かな静かな、けれどいつもの、春の夜。
「千鶴子」
「はい?」
ぴたぴたと、顔に化粧水をつける手をとめずに、千鶴子は返事をした。
「もう眠るかい?」
「いいえ」
鏡越しに見える夫に、千鶴子はにっこりと笑って見せた。
中禅寺はうつ伏せのまま肘をついて千鶴子を見ていたが、やがて読んでいた本を閉じると、おいでおいでと掌で招いた。その表情は相変わらずの仏頂面だが、見るものが見れば目の端が柔らかなのがわかる。
「たしかお昼、関口さんに、今日中にその本を読み終えなきゃならないなんて仰っていませんでしたか?」
千鶴子はからかうように笑いを含んだ声で言いながら、立ち上がって夫が寝転ぶ布団の脇についた。
中禅寺は少しだけ気まずそうに唇を尖らせる。
「とっくに読み終えたさ。今読んでいたのは、まぁ確認だ」
素直でない夫が、何だか可愛かった。
ふわりと弧を描いた千鶴子の唇は、紅を落としても未だ赤く、中禅寺は見慣れているはずのそれに目を奪われた。
それを自覚して、漸く観念する。
「・・・今は、君がいい」
「本より?」
「ああ」
照れているのだろう、常態の不機嫌な顔は、今は不貞腐れて見える。千鶴子は身体を折って、その薄い唇に口付けた。
今夜は千鶴子にとっての「最大のライバル」に意趣返しができたらしい。それが少しだけ誇らしくて、嬉しかった。
夫から顔を離し、囁くように告げた。
「お布団入れてくださいな」
もちろん、彼女の夫が、そのおねだりに逆らえるわけがない。
*
夫婦の日常を書きたかったんだと思います。
いつ書いたのか覚えていないのですが、ものっそい久々に読み返したら、
何と自分で萌えました。
あはは自給自足。
うちの秋彦さんは千鶴子さんに勝てません。
うちの千鶴子さんは時折左側風味。