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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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★数か月だらだら書き続けていつ終わるのかさっぱりわからないので、
なんとなくキリがいいような悪いようなところで前半としてアップしちゃいます。

★吸血鬼・・・?

★益敦ですが、まだ敦ちゃん出てない。

★鳥ちゃんと益田がいちゃいちゃする。

★ギャグ・・・か?

★それでよければ、シリアス風味になってきた連載の箸休めに。


 その華奢な首筋の白さたるや、ブラウスの襟の白さが霞むほど。 
 あんなに白いのに、あの奥にはきっと、目が覚めるような赤い赤い血液がたっぷりと詰まっている。
 僕の犬歯をゆっくりと、できるだけ無駄な傷を負わせないように、痛くないように、突き立てれば、蜜柑の薄皮が破れた瞬間のようにいい香りのする液体が溢れるのだろう。

 ってこれじゃ変態じゃないか。

 沸騰した思考に必要なのは、頭を冷やす為の珈琲だ。僕は二時間も前に煎れた冷め切った珈琲を一息に飲み干して、空になったカップを持って台所へ向かった。

「僕は嫌だぞ!もう絶対に嫌だぞこの変態が!!!」
「ええ?・・・ああはいはい」

 探偵机には相変わらず、とても華族御出身とは思えない非常に非礼な態度で踏ん反り返る探偵が僕をねめつけていた。彼の琥珀色の瞳は人の思考(?)を映像化して視ることができるらしく、どうやら彼の唐突な憤慨は僕の思考を視た結果であるらしい。これもいつものことなので、今となってはある程度は慣れてくる。
 きっと、僕の願望が多少何かしらの映像になったのだろう。
 もしかしたら、
 過去のこの人の「血を吸った」映像でも視たのだろうか。
 どうだろうかと伺ってみると、榎木津はそれこそクッキーを口いっぱいに詰めこまれたらこんな顔をするのかも知れないと言うような嫌そうな顔をしている。
 まあ、過去に血を分けてもらった時の榎木津の様子を思い出せばこういう顔にもなるだろう。
「もう榎木津さんにはお願いしませんよぅ」
「当たり前だこの変態!!」

 つまり、僕には吸血願望がある。

 自分でもこの時点でアウトな気がしないでもないが、子供の頃からこうだった。血を見ると、ああ痛そうだという当たり前の危機感と共に、それは否応もなく、食欲が刺激されていた。お腹が鳴るのだ。では腹を満たせばよいのかと言うと、血で刺激された食欲はどうも血でなければ癒えないものらしく、いくら食べても駄目だった。
 どうしても、血だった。
 帰りに魚屋でも寄って行こう。
 マグロの赤身や血合なんかはなかなか便利な食材で、幼い頃からよく与えられていた。(今思えば物分かりの良い両親である。)僕は己の喉に触れながら、げほんと咳をして渇きを誤魔化す。まだ、なんとか、魚で足りるくらいだった。
 稀に頭がくらくらする程の枯渇を感じると、もう魚では足りなくなる。肉屋で、できるだけ新鮮で赤い肉を買い求めなければならない。(何故腹を壊さないのか我ながら不思議だ。)
 それで足りなくなると、もう最後の手段、人に頼るしかない。
 もちろん、厭だ。
 そもそも自分自身に何故血を吸いたいなどという欲求があるのかさえわからない。
 両親は勿論親族にも、僕のような体質の人間はいないらしかった。過去に僕を診たどの医者も匙を投げた。何度も治療と研究の一環として大学や病院に足を運んだ。一度、カストリ雑誌に嗅ぎつけられて記事にされてから、一切の治療と検体提供を止めた。幸いに名前や住所を明かされたわけではなかったから大事にはならなかったけれど、今考えてみたらぞっとする。
 何一つはっきりしていない。
 けれど、僕にとって血液は重要な栄養源なのは間違いがないようだった。渇きを我慢しすぎて栄養失調になったことなど数えきれない。渇きを誤魔化そうと必要以上に食事を摂っても、血がなければ飢えるのだ。
 それでも子供の頃は、まだましだったように思う。
 ひと月に一度程度、血液成分の高いものを食べたり飲んだりすれば元気に遊びまわっていたと両親は言っている。
 それが、少しずつ少しずつ、戦争が本土にまで及んだ頃だったろう。
 血への欲求に咽かえり、軍需工場で倒れたことがあった。それは視界と思考が霞む程の高熱を伴って、数日間工場を休まなければならなかった。あの数日間の記憶はほとんどない。が、次に工場へ行くと、よく話をしていた友人から絶交を宣言された。蔑むような怯えるような顔をしながら、一度だって僕と目を合わそうとしなかった。ただ、彼の手首に包帯が巻かれていたことが、僕が何をしたのかを語っているような気が、する。僕の母親の手首にも、同じような包帯が巻かれていたから。
 大人になった今だからわかるのだが、あれは多分、思春期だったのだ。
 精通があったのもあれくらいだった。あの頃を境に、骨が軋んで痛みだし背が伸びた。声が低くなった。女の子が気になるようになった。
 そういえば、疲れていたり睡眠が足りていない時も、唐突に喉が渇いたりする。今気付いた。
 まあつまり、僕のこの血への欲求は、食欲や性欲や睡眠欲と、きっと並列になるのだろう。
 榎木津が連呼するように、本当に「変態」なのかもしれない。何度疑ったかわからないくらいに考えた。「あまり一般的でない欲求」は、個性的な性衝動の発露である可能性があるとは、僕を研究対象にした医者(だったのか大学教授だったのか)が言っていたことだ。
 正直言って、わからない。
 吸血鬼という、それこそ知人の古本屋のご主人が大喜びしそうな怪物のようなものなのか、それとも極普通の人間でただ変態なだけなのか。 
 どちらにしたってあまり誇れるものではないけれど。
 
「ああ、喉乾いた」

 枯渇感に、喉仏を軽く潰す。
 
 頭に浮かぶのは、魚なんかよりもっともっと可愛い僕の――。

 ***

「つまり敦子さんの血が欲しくて欲しくて欲しくてたまらんのですよ僕ぁあ!!!」

 最低だ!最悪だ!だって凄くいい匂いするんですよ。甘くて濃そうな、舌触りがこう滑らかそうな!ああ僕って最低ですよ。血ですよ?血!大量の失血は命に関わるんですっ、奪っちゃいけないんですよ。でも、でも僕はぁあ。

 ビール一瓶で出来上がってしまったらしい益田の、己の欲求に関するあからさまな告白を聞きながら、鳥口はへらへらと笑った。
「そういえば、君が師匠に相談したのはまずかったなぁ。妹さんをお嫁に下さいなんて言った日にゃ黒装束で出迎えてくれそうだ」
「あああ、そう、それも大問題ですよ。憑き物としておとされるか変態として呪われるかの二択っきゃ思いつきません」
 今日は別に予定を合わせたわけではなかった。益田と鳥口、そしてこの場にいないがもう一人刑事の青木というたまに連れだって飲む三人がよく使う居酒屋に、一人で飲みにきたところでかち合ったのだった。
 先に飲んでいたのは探偵助手で、いやに生気のない飲み方をしているから尋ねてみれば、依頼がない代わりにプライベートで考え込んでいるのだという。鳥口の方は相変わらずプライベートも何もない生活に勤しんでいるのだが、友人の深刻な顔を無視するような人間ではないつもりだった。
 益田が深刻になっている理由は、ある程度検討がついていた。そうでなければ、益田は今幸せに浮かれていてもいい身分なのだ。

「長年の片思いがやっと実ったってのに、難儀なもんだなぁ君は」
「・・・実ったからこその悩みだよ」
 
 益田には最近、それはそれは魅力的な恋人ができたのだ。それも、鳥口と青木も同時に惹かれていた女性だから、鳥口に複雑な感情が微塵もないと言ったら嘘になる。
 しかし、益田は大事な友人だし、お互いに思い合っているのはよく知っているから、蟠りや、妬む気持ちはない。
 付き合いたての男女には当たり前のこととして、さぞ幸せな毎日を謳歌していると思った矢先の益田の憂鬱な表情だった。

「手に触れただけでクラクラする・・・渇きすぎて」
 
 その瞬間の益田の横顔にぞくりとするものがあって、ああこれは根が深いと、にやつくのをよした。
 
「とりあえず・・・なんか大変そうだし・・・ちょっとノんでく?」
「・・・鳥口くん・・・レバー驕りますよ」

 世の中には親切な人がたくさんいる。
 警察官を経て現在探偵をやっている身としては、何と呑気だろうかと思わないでもないが、自分に血を提供してくれる人間のことを思えば当然の感慨に思えた。
 例えば、益田はお化けなぞできるだけ会いたくないと思うし、お化けに「あなたの生き血をもらえませんか」と請われたら、悲鳴を上げて逃げるだろう。益田は自分がお化けだと思った事はなかったが、さて世間からして自分はお化けとどう違うのだろう。
 大蒜は食べられるし、十字架は怖くない。心臓に杭を刺されるどころか、ちょっとしたことできっと死んでしまう。自分は吸血鬼であると、自信を持って言い切れるほど、自分がいわゆる「怪物」だという自覚はない。
 けれど――
 この皮膚の内側を流れるものに、たまらなく食欲を覚えるなどと言われたら、
「どうして、怖くないんです?」
「ぅ、え?」
 益田は一度手首から口を離すと、卓袱台に突っ伏す鳥口に尋ねた。
 まともな答えを求めて問うたわけではなかった。血を吸われている間、ほとんどの人は通常の意識を保てなくなる。益田は再び、二つの穴から溢れている血液に舌を這わせた。やはり、美味しい。若く健康な、特に生きている人間の血、というものは特別に美味く感じる。
 本当は思い切り吸い上げてしまいたいのだが、そうすると量の加減がわからなくなるし、痛いと言われたことはないがもしかしたら痛みが生じるかもしれない。もともと臆病で、よくいえば優しい性格の益田には、そういった思い切りはできない。
 美味しいのだが、大事な友人なのだ。
 益田に血をわけてくれたのは、母や友人など身近な人から、一種の性癖と割り切った玄人まで様々にいたけれど、それらすべての人を益田は傷つけたくないと思った。そう思いながら、皮膚に牙を立て、溢れる血を見た。 
 ――ごめん。
 ゆっくりと吸う力を弱めていき口を離し、血が溢れていないのを見てから、傷口を慰めるように一嘗めする。すると不思議と血は止まる。
 鳥口は顔を上げないまま一度魂が抜け出そうな溜息をつき、だるそうに起きた。
「鳥口君、平気かい?」
「ん・・・平気平気」
 そうは言うが、赤い穴があいた腕は腕まくりもそのままに、だらりと垂れている。
「疲れただろうし・・・泊ってください。布団敷きますんで」
 布団は一組しかないが、自分は雑魚寝でもすればよい。実際、血液を摂取した身体は数時間前が嘘のように軽く、一晩中起きていてもよさそうな程だった。
 鳥口はやっと益田を見ると、離れ気味の目を細くした。
「気を使わなくていいんすよ。それより、あんなちょっとで大丈夫なんすか?」
 言う通り、量は控えた。しかし、かなり飢えていたから、腹いっぱいになるまで飲んだら鳥口がどうなるのかわからなかった。
「大丈夫ですよ。お陰様で頭すっきり」
 益田はふざけてご馳走様と手を合わせた。鳥口の表情がへらりと崩れて、お粗末さまですと答える。いつもの二人に戻っていく。食べ物ではない、友人二人として。
「まーでも食事代として、寝かせてもらってもいいかい? 帰るの面倒だ」
「もちろん」
 実際平気そうな顔はしているが、倦怠感はあるのだろう。布団を敷くついでに温かい茶を炒れてやろうと立ち上がる。
「ああ、あとさ」
「はい?」
「怖くはないさ」
 だって益田君だもの。
 そう言って、何が可笑しいのやら、鳥口は明るく笑った。
 益田の、無意識に力んでいた肩から力が抜ける。心が軽いのは、きっと血のせいではないのだろう。


たぶん(続く)と思う。
 

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