さらりと手の甲が擦れ合った。
生じた摩擦熱が頭にまわり、思考が止まり、喋る口が止まる。
「・・・で、あの馬鹿こんな馬鹿なことを言うんだ」
不細工な一秒の沈黙は、水分を大量に含んだ七月の空気に蒸されて消えた。
軽やかな笑い声を左耳に聞く。
掴みとれなかった手のことなど、こう暑いのなら忘れてしまっていいだろうと、思った。
さらりと手の甲が擦れ合った。
腕の長さが違うから実際のところ甲というよりほとんど腕なのだが、とにかく、触れあった。
じわりと首に汗が浮いた。
かつて、
すべて思うままにする子供の王様のような顔で手をとりずんずんと歩いて引っ張った男は、今はそんなことはしないらしい。
すかすかと、歩く度に手が揺れた。
奇妙なことを言う男を笑う。
軽い声が、七月の蒸した空気を割って、上昇していく。
すかすかと、気持ちが通り過ぎていく。
笑いながら、
何やら馬鹿馬鹿しい理由で体の内側についた傷が、湿気で沁みた。
好き。大好き。
それだけのことだったので、あんなに簡単に触れることができたのです。
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