思わぬ申し出に目を丸くする美由紀に、敦子はやんわりと微笑んだ。
ガッタン、と何か重たいものが床を叩く音がして、美由紀は窓際を振り返る。
視線の先、窓際の大きな机の向こうでは、探偵が仁王立ちになってしげしげと敦子を見ていた。
うぅん？それはなんだか面倒くさそうだなあ。
でもねえ、ほかでもない敦ちゃんのお願いだからねえ。
よし！敦ちゃんの可愛らしさに免じて、そのえらく膨大な質問に答えようじゃないか！
ねえ女学生君！
元気いっぱいの呼びかけに、美由紀はただ、ハアと返事をした。
Q1 お名前、生年月日、出身地を教えてください。
探偵（以下、探）） 敦ちゃんが知ってる通りだよ。
美由紀（以下、美）） 出身地は千葉です。
Q2 恋人の性格を一言で言うと？
探） 根性がある。
美） 根性、ですか･･･。
探偵さんは･･･一言って難しいですね。正義感の強い人だと思います。
探） へーえ。
Q3 恋人の長所と短所は？
探） 長所はさっきと同じ。あと賢いね。顔も可愛い。
短所かあ･･･鈍いところだね！
美） ええ？私運動は得意ですよ？
探） ほら、こういうところ。
Q4 恋人との歳の差は？
美） 探偵さんが二十くらい上ですね。
探） 今君ぁいくつなんだい？
美） それくらい覚えていてください。
Q5 出会った時期と場所、状況は？
探） いつだっけ？
美） ･･･私が13歳の時です。場所は当時通っていた女学校ですね。
例の、絞殺魔の事件の最中です。あ、いえいえ、お気遣いなく！
Q6 恋人の第一印象は？
美） 突拍子もない人がいるな、と。
榎） 僕が覚えているわけがない！
Q7 好きになったところは？
探） 可愛いところ！
美） 簡単に言うなぁ。
私は･･･未だによく・・・わかりません。
探） ･･･そこは何か答えなさいよ。
Q8 告白はどちらからですか？
探） 僕だ！ 美） 私です。
探） 僕だろう。 美） 私でしょう？
Q9 え･･･っとまあまあまあ。付き合ってどれくらいですか？
美） 3ヶ月くらいですか。
探） そうだっけ？
５、６年くらい付き合ってる気がするけどねえ。
美） どんな認識なんです。
Q10 恋人に不満を感じているところはありますか？
美） うーん･･･
探） 別にないよ。
美） もうちょっと下僕の方をねぎらった方がいいとは思います。
探） ああ！君はわかってない！
僕はココじゃぁあのカマや猿には冷たすぎるくらいでなければいけないのだ！
誤解されるなんて真っっ平御免だぞ！
美） ごかい？？
Q11 恋人を愛しいと思うのはどんなところですか？
美） ―――。
探） ―――。
美） どうぞお先に。
探） それはずるいぞ。
美） じゃあ、意外に照れ屋なところです。
探） ずるいっ！
Q12 恋人はあなたの理想に当てはまりますか？
探） そりゃあ好きな人が理想の人だからね。
美） ･･･照れ屋のくせにどうしてそうくさい台詞が言えるんです？
探） 煩いなぁ。異存があるかい？
美） いえ。
Q13 実のところ、歳の差は気になりますか？歳の差を感じる時は？
探） 今は気にしないねえ。
美） 気にしていたことなんてあったんですか？
探） 君が気付かないだけだ。
美） ･･･はあ。
私は、時々気になりますよ。
探） え？どんな時？
美） お酒とか甘いものとか摂り過ぎて病気にならないかなぁと心配になります。
探） ああっ聞いて損をした。
Q14 どんなデートをされてますか？そのデートには満足しています？
美） えっと、新しくできたお店を見に行ったり、その辺を散歩するだけという時もありますね。
あ、探偵さん、もう飽きてるんでしょう？
探） ぅぅん？
うん、満足してるよ。どこ行ったって楽しい。
Q15 周りの反応って気になりますか？
探） 何で気にする必要があるんだ？
美） ･･･だそうです。
Q16 誰かに反対されたこととかは？
美） えっと、まあ、多方面から。
探） 反対する理由がどこにあるというのだ！
Q17 榎木津さんに伺います。恋人が背伸びをするのをどう思います？
探） もともと女の子にしちゃ背が高いのだから、背伸びする必要はないだろう。
美） そういう意味ではないと思いますけど。
探） 君が背伸びをしないでも届くように、ちゃんとかがんであげているじゃないか。
美） はあ。
･･･ん？どういう状況の話です？
Q18 （ゲホッ）美由紀ちゃんに伺います。恋人が自分を子供扱いするのをどう思います？
美） 悔しいですけど、まぁ仕方ないとも思います。
探） してないよ。
Q19 無意識にでも気を付けている事はありますか？
美） 特にないですけど･･･嘘はつけないとは思います。
探） うん無駄だね。
Q20 あの･･･大変お聞きしづらい質問なので、任意で結構ですが･･･。
恋人との、性交渉には満足されていますか？
美） せぃ？･･･なっ、えっ！？
探） まだしてなーぁい！
しかし随分先進的な取材内容だねぇ敦ちゃん。
Q21 （ハー･･･）恋人を可愛いと思うのはどんな時ですか？
探） いつだって可愛いよ。
美） 可愛い可愛いって言いすぎです。
探偵さんは･･･寝つきのよさとか･･･
あ、あと熱いもの食べる時に、ずっとふーふーしてるところとか。
探） うん？何だそれは！
Q22 思わず惚れなおしてしまう瞬間は？
美） たまに、真面目な顔で見られると･･･。
探） ふぅん。どきっとする？
美） ちょ･･･近い、顔が。
Q23 精神年齢ではどっちが上だと思う？
美） うぅん･･･探偵さんです。
探） 僕だね。
Q24 手を繋ぐのに抵抗はありますか？
美） 公道ではちょっと･･･。
Q25 あっ榎木津さん、もうちょっとですから寝ないで、ね？ えっと、一番安心するのはどんな時ですか？
探） そばにいたらそれで安心してるよ。
美） ･･･はあ。まぁ私もそうです。
Q26 抱き締めるのと抱き締められるの、どちらが好きです？
美） えっ―――抱っ･･･ぅぅ。
探） ふふ。どっかの猿みたいだなぁ。
抱っこするのは気持ちいいよ。触り心地がとても良い！
Q27 えぇっと、接吻は、どんな時にしたくなります？
美） せっ･･･！？ええっ？
探） わははは真っ赤だ真っ赤！可愛いなぁ。
で、どんな時にしたくなるんだい？
美） どんな･･･って･･･。
目が、合った時とか？
探） ふむ、いい答えだね。
美） ちょ、近いですってば。
Q28 ･･･歳の差で悩む方々にアドバイスをするとしたら？
探） 下々の者はそんなことで悩むのか？馬鹿だなぁ。
配慮することは肝要だが、問題にするかどうかは当人次第だよ。
Q29 なるほど。では、お二人は今幸せですか？
探） そりゃあもちろん。
美） えっと、私も幸せです。
探） それも当ぉ然。
Q30 では、これで最後の質問です。今までの質問に答えてのご感想は？
探） ああっやっと最後か！
可愛い敦ちゃんのお願いだから仕方ないが、でも長い！質問が多すぎる！
一体なんの調査になるというのだ？
まあでも、面白いことも聞けたしなぁ。真っ赤な女学生君も見れたことだし。
なかなか愉快だったね！
美） ハー･･･。私はなんだか変な汗をかきました。
若く可憐な有能編集者は、なぜか顔を手で扇ぎながら、慇懃に礼を述べて去っていった。
扉が閉まるまで見送った美由紀は、何やら物騒な気配を感じて振り返ると、そのまま背後の人物に両肩を掴まれくるりと反対向きにされた。
美由紀の視線の先では、探偵があくどいほどに美しい微笑みを浮かべている。
で、女学生。
探偵は表情を変えぬまま、長い腕を美由紀の両肩にだらりと乗せて、視線の高さを合わせるようにかがんだ。
美由紀は思わず首を反らしたが、反らせばそれだけ探偵は顔を寄せるので意味がない。
鼻先10センチの距離で、探偵は微笑みを崩し、にやぁと笑った。
どうしようかなあ。
そうだこうしよう。
僕の好きなところを100個あげるのと、
君がうまく答えられなかった質問について、満足に回答できるようになるまで僕の部屋で一緒にじっっくりと考えるの、
どっちがいいんだい？
美由紀は、探偵の悪戯な口調に不似合いな迫力ある眼差しに、一度生唾を飲み込んだ。
かろうじて出た小声で、前者、と答える。
探偵は、楽しそうに笑った。
Q1 じゃ、まずひとつめは？
★あとがき★
拍手ボタン変更前の最後の御礼掌編です。
ベタにいこう！と思ってやってみた質問ネタでした。
私のエノミユ感が濃縮されてます・・・。
オチが珍しく糖度高めにできたのが気に入っているかもかも・・・。
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