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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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★探偵×女学生 
※恋人設定


「クリスマスですね」
「うん。じゃあ、飲みに行く?」
「…探偵さんはそればっかり」
 
 二人して、頭まですっぽり布団を被っていた。
 


 美由紀が学校を卒業してすぐ越してきた部屋は、風通しがよく夏は涼しいが冬は外と変わらぬほど寒い。
 だから、外で食事をして美由紀の部屋に帰った二人はあまりの寒さに、きっちり服を着たまま、布団の中に湯たんぽひとつを入れ抱き合って寝転がって、話をしたり、少し眠たくなってあくびをしたりして過ごしていた。
 榎木津が着ているセーターはふわふわと厚手で美由紀の頬に心地良い。榎木津にとっては、寒がりの美由紀が自分の胸の中で温かそうに身体を伸ばしているのが、どうにも可笑しく可愛かった。
 
「女学生君は可愛くて良い子だから、どこかの国の神父が来るんじゃないか」
「神父?…もしかしてサンタクロースのことですか?」
「三太だか三軒茶屋だか知らないが、女学生君の家に不法侵入を試みるなんていい度胸をしているじゃないか」
「不審者扱いは気の毒です」
「24日の夜はしっかり戸締りするんだね」
「せっかく靴下でも吊るしてもてなそうと思っていたのに」

 くすくすと、笑い声が、狭い狭い布団の中、ほとんど距離のない二人の間でこもる。
 二人の絡まった足の先に湯たんぽ。体温と、吐息の熱。

「安心しなさい女学生君」
 良い子の君には、僕御自ら贈り物をしようじゃないか。
「・・・光栄です」
「何がいい?何が欲しい?」
 何でもあげる。
「何でも?」
 あんまり自信満々に何でもと言われては、逆に困ってしまう。
 
 何が欲しいだろう。

 部屋の外は肌に痛いほど寒いのに、美由紀はどこもかしこもぽかぽかと温かい。愛しくていつだってそばにいたくて仕方のない人は、今同じ布団に入り自分を抱き締めてくれている。
 今この時、欲しいものなど何処にあるというのか。
  
 美由紀は榎木津の胸の中で折り畳んでいた手を、そのふかふかしたセーターに押し当てた。
 とくとくと心臓が鼓動している。

 榎木津は美由紀の腰に回していた手を背に沿って上らせて、つるつると滑る髪を梳きながら頭を引き寄せた。
 また少しだけ、二人の距離が零に近付く。

 温かくて、恋人は機嫌よく優しい。足りないものはどこを探したってない。
 ないのに。
「探偵さんが欲しい」
 もっともっと。
 手の中にあるもの以上に欲しくなる。
 言葉に変換されない、霞のような泥のような水のような、感情を持て余した。
 束縛も執着もしたくないと日頃から思っている。それでも、もっともっと、と求める心が無限に膨らむ。吸収するばかりで縮むことはない、酷く陳腐で単純な宇宙のような感情の混沌。
「何だそれは」
 鼻で笑いながら榎木津は言って、少しだけ美由紀から身体を引いた。
 ほんの僅か開いてしまった距離が、美由紀を過敏に寂しくさせる。
「だって欲しいんですもん」
 まるで縋るように、美由紀は榎木津のセーターを掴んだ。
 頭上に降ったため息が、頭の天辺の髪を揺らした。
「クリスマスしか欲しくならないのか」
 呆れ声で言われたことの意味が、美由紀にはよくわからなかった。
「せっっかく!相思相愛というやつなのだから、もっと欲しがりなさい」
 毎日だっていいんだ高度成長期だぞ。景気もいい!
 後に続く言葉も、何だかわかるようなわからないようなものだった。
 しかし、とにかく、もっと欲しがってよいということらしかったので。
 
 真っ暗の布団の中、美由紀は榎木津の声のするところに指を伸ばした。
 最初に触れたのは滑らかで柔らかな、たぶん頬で、それを撫でて顎の曲線に至り、やがて唇に触れた。己の指をたどって、美由紀は首を伸ばす。唇を、押し当てた。

「欲しいです。それじゃ、今すぐ」
 榎木津は、上機嫌に笑った。暗くて見えはしないが、気配でわかる。
「よし!いいだろう。あげる」
 いやってくらいあげよう。
 ・・・そんなにはいいです。

 榎木津が美由紀に覆い被さるように動くと、持ち上がった布団の隙間から冷気が入り込んだ。
 もちろんそんなことは気にならない。薄まった互いの熱は、一瞬で戻ってしまうだろう。
 口付けは優しく、次には激しく交わされた。枕の上で、互いの指が重なって絡まる。きっとそのうち、服を脱ぎたくなるくらいに熱くなる。
「クリスマスは、どうするのって、話でしたよね」
 濡れた唇に、恋人の熱い吐息がかかった。たしなめるように、大きな掌が頬を包む。
「それは、あと」
 どうせ僕らには関係ないんだ。  
「それも、そうですね」
 何だか納得して、美由紀は再び目を閉じた。


 

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