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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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行葉(yukiha)
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女性
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はじめまして。よろしくどうぞ。

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谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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★関口夫妻
※旧拍手ボタン御礼の再録です。

 



柱にかけた時計を見れば、
そろそろ中野に着く終電車もなくなってしまう時間だった。
遅い。


昼過ぎ、買い物から帰るとすぐに電話が鳴った。
出てみればあの人で、中禅寺家からかけたらしい。
「飲んでくるから、夕飯はいいよ」
なんて言う。
いつもの、素っ気無い、困ったような不貞腐れたような、小さな声で。
大方、榎木津さんや木場さんに無理強いされたのだろう。
まあ、あの人はあれで捻くれ者だ。
無理強いされている恰好をする。
買ってきた食材を振り返りながら、私は了解の旨を伝えた。


時計を睨んだところで始まらない。
裁縫でもしようかと、道具を取りに立ち上がった時だった。

玄関先で、声が聞こえた。

この声。
張りのある雄々しい声。
喚く、とか、騒ぐ、とかそういう声。
その声が誰のものかわかった途端、
なんだか、とても安心した。

「こらサル!巣に着いたぞ!」

玄関をあける前から、はっきりと聞き取れる。
私は可笑しくて、
戸に手をかけた時には笑っていた。

「やあ雪ちゃん今晩は!お届け物だ!」

まったくお供のサルというのはもう少し主人の役に立つものではなかったかなぁ。
こらいい加減起きろ!関!立てってば!

その人は私に快活に笑いかけながら、
足下でうずくまっている彼の後輩、私の夫を罵倒し、つま先で乱暴に小突いた。

微かにお酒の匂いがした。
やたら元気に見えるこの人も、かなり呑んでいるのは間違いない。
普段から酔っ払っているような振る舞いだから、私にはどうにも違いはわからないのだけれど。

夜の、冷えて沈滞した空気を、
疾風のようにかき乱す存在感だ。
玄関の裸電球の何万倍、雷みたいに、
この人は明るい。

「こぉらなんとか言え!」
「うぅ・・・ただいま」

ようやく見られた夫の顔は真っ赤で
一瞬だけ私と目を合わせると、
叱られてしょげた子供のように目を伏せた。

「まあ、本当にお猿さんみたい」

思わず口にすると、
夫を膝で突付いていた彼は、
ガラス玉のような目を細めた。

「さすがぁ雪ちゃん」

そうしてまた、笑ってくれる。


茶を勧めたが、彼は迎えがあるからと言って、
颯爽とした足取りで帰って行った。
今度夫に菓子でも持たせなければ。

さて。
この、
玄関に生えた巨大なキノコをどうしましょう。

「タツさん、立てますか?」

ようやく上がり框に腰掛けてはいるが、
目が回っているのか、
だらりと両手を投げ出してびくりともしない。

「お猿さん?」
ぽんぽんと、夫の肩を叩く。
お酒の匂いが強く漂った。

サルぅ
と、くぐもった小さな声がして、
夫はこの上なくだるそうに首を上げた。
潤んだ瞳はどこか心細げで、
迷子の子猿、といったところか。

夫は上目遣いに私を見ると、
なぜだか
口を尖らせた。

「榎木津に、見惚れてただろう」

私は
しばらく、声を立てて笑った。


こんなことを言ったら
あなたはきっと拗ねてしまうのだろうけれど、

あの人たちがあなたの近くで笑ってくれることが
私にはとても、頼もしいと思えるのです。

 


【あとがき】

実は初の関雪でした。
雪ちゃんは関君にゾッコンなんだという主張。
 

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