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京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
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行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
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誰もわかりっこない。

***

『薔薇十字探偵の私事』(7)

※オリキャラがどうしてもでしゃばる
※話が進まない
※美由紀出ない
※絶滅危惧種「エノミユ」の保護に何ら役立たない(涙)
※リハビリ足らず相変わらず駄文ですみませ。


 猫には猫の事情があるのだろう。
 若々しくも無骨な手に撫でられる猫を遠目に見て、益田は思った。
 益田が背を撫でようとすれば、途端に振り返って牙を見せるというのに、顔見知りの時間はずっと短いだろう目の前の若者には目を細めて撫でられている。
 名を石榴という猫の、好みやら気分やら、そんな事情は益田には当然わからない。
「君達ね、ここは保育所ではないんだ。昼寝だとか猫と遊ぶとかなら余所を当たってくれないか」
 益田が今日訪れた京極堂の主、中禅寺は、掛け軸を背景に不機嫌そうな顔で宣った。これがデフォルトだとわかっている益田は、「僕は仕事ですよぅ」と適当に答える。
「仕事というのはこれの回収のことだろう? なら早く仕事に取りかかってくれたまえよ」
「いやぁそうは言いましてもねぇ」
 現状、益田の仕事とは、この京極堂で時間を潰しているだろうと予測された己が上司のお迎えだ。夕方に依頼人の来訪があるため、なんとかあと二時間中には探偵社に戻りたいのだ。
「無理矢理に起こしたって絶対に言うこと聞きゃしないですもん」
 益田が京極堂についた昼過ぎから、榎木津は既に昼寝していた。中禅寺いわく昼飯を食べてすぐに寝たということだから、かれこれ二時間近く昼寝していることになる。子供というよりは赤ん坊のような寝方だ。
「もう少ししたら起きるのでは?」
 縁側で猫を胡座の足に乗せた青年が、振り返って言った。低いが、若いとわかる声である。
「寝る時は、1時間半くらい寝て帰っていくことが多いですから」
 ねえ?と中禅寺に問いかけると、問われた方は本の頁を括りながら、ああとだけ応えた。
 益田には、この松枝という名の青年の事情も、さっぱりわからない。
「・・・はあ」
 松枝は夏の縁側の日陰が似合う、精悍な青年である。表情が乏しすぎるせいで人を威圧するが、話してみれば愛想が悪いわけではない。話し方は礼儀正しいし、年上の男達の中で物怖じしないから、案外話しやすい。何より、この中禅寺と対等に話をするのを見ているとうっかり感心してしまう。普通の若者は、普通の人間代表であるところの友人本島のように、中禅寺と話をすると多少は萎縮する。松枝はそれが微塵もないのだった。それは、彼の背後で座卓の下に伸びている男に対しても、同じである。
「・・・このところ、うちの探偵はこちらに入り浸っているとか?」
 榎木津は特にどこへ行くと断って出かけたりしないから、予測だとか人づてに聞いたことから、どこにいるのか判断する。松枝の口振りだと、どうも榎木津は最近、京極堂を訪ねていることが多いのだろう。
 確かに中禅寺と榎木津は旧知の仲だし、探偵が友人と自ら認める数少ない人物だ。しかし、週に何度も、連日訪れるような、そういうことは今までなかったように思う。
 中禅寺は本から顔を上げると、切ないような表情で益田を見た。何だ、その顔は。
「週に2、3度来ては、飯を食ったり食わなかったり、昼寝したりしなかったりして帰っていくよ」
「そりゃぁ・・・多いですな」
「まあ、そこの彼も似たようなもんなんだがね」
「昼寝はしていません」
「猫と遊んでいるだけじゃないか」
「どうにもかわいくて」
 松枝は硬質で無色の顔を猫に寄せて、慈しむように小さな額を撫でた。何を考えているのか、益田にはちっともわからなかった。ただ、同じ無表情でも、気が抜けているのはわかる。
 悪人ではないのだろう、と益田は思った。ただの勘でしかないのだが。
 中禅寺の交友関係は異常に広い。学生の友人もひとりではないと聞いたことがあったから、松枝もその中の一人なのだろう。しかし、益田にはひとつ、引っかかることがある。
 初めて松枝と名乗りあった時、ぞわりと鳥肌が立った。

 ――美由紀ちゃんの・・・。 

 いつだか見たことがあった。夕暮れの神田駅だ。よく見知った女学生と共にいた、いやに絵になる、若い男。遠目だったし、よくよく見たわけではない。
 初対面は半月程前、やはり京極堂でのことだった。美由紀と一緒にいた男に、少なくとも別人かどうかがわからないくらいには、似ていた。
 益田の胸に浮かんだ疑問は、他でもない松枝本人から明らかになる。益田が榎木津のもとで働いていると自己紹介した時だ。
「ああ、では呉美由紀さんもご存知ですか?」
 松枝は僅かも表情を変えずにそう言った。
「・・・ええ、事務所によく遊びに来てくれますが。美由紀ちゃんのご友人で?」
「そんなところです」
 その後、松枝青年については中禅寺から正体を聞くことになる。
 都内の有名国立大学の学生で、経済学を専攻しており特に対ヨーロッパの外交に精通していることとか、外国を知るには自国を知るべしという信念のもと、日本文化への知識が深く、特に文学については中禅寺と対話していても見劣りしないくらいの知識を持っている。呉美由紀とは彼女が都内に越してきてからの友人だが、京極堂に現れたきっかけは司喜久夫だとも聞いた。
 世間とは狭いものである。それとも、この青年の世間こそが広すぎるのか。 
 悪人ではないだろう。そうでなければ美由紀の友人にはなり得ないし(あの娘はもの凄くよく人を見るのだ。)中禅寺は家にあげない(呪いをかける気でなければ、たぶん)。
 ただ、益田が彼を気にしているのは他にも理由がある。
「ああ、松枝君。近々美由紀君と会う約束をしているかい?」
 中禅寺が今思い出したというように本から顔を上げた。
 くるりと振り返った松枝の顔は、動かすことを怠けているとしか思えないくらい表情が変わらない。それでも、益田の目には彼がびっくりしているようにも見えた。
「明日会いますが」
「そうか。それなら、本が入荷したからいつでもおいでと伝えてくれないか」
「構いませんよ。何なら僕が立て替えて、明日彼女に渡しますが」
「いや、保存状態が良いとは言えなくてね、買う前に見てもらいたいんだよ。まあ何より、最近音沙汰がないものだから、千鶴子が気にしているしね」
「はあ、そうですか」
 おやと思って、益田が口を挟んだ。
「美由紀ちゃん、こちらにも来てないんですか?」
 中禅寺は詰まらなさそうに益田を見ると、事も無げに来てないよと繰り返した。
「七月以来だから、もうじき二ヶ月になる。まあ、年頃のお嬢さんがこんな寂れた古本屋に入り浸られても逆に心配だがね」
「嫌味ですねえ」
「わかってもらえてよかった」
 中禅寺と松枝の、何やら仲の良さげなやり取りを聞きながら、益田は多少混乱していた。
 美由紀は、どうしたのだろう。
 益田が最後に美由紀の顔を見たのは、実に三ヶ月も前である。それまでは、少なくとも月に一度は、多ければ週に二度は顔を見て、一緒におやつを食べたりしていた。美由紀が十五の歳からそれはずっと続いていて、ほとんど三年以上もの間の習慣だったというのに。それはここ京極堂でも同様で、彼女との会話の中ではよく京極堂での出来事を聞いていた。
 ここにも来ていないのか。
 それなのに、美由紀は明日、目の前のこの若い男と会うのだと言う。
 縁側に座り猫を愛でる青年から少し視線をずらせば、縁側に頭をはみ出させた探偵が寝ている。距離が近いから尚更、二人の男を対比させてしまう。
 黒い髪に黒い瞳に浅黒い肌。栗色の髪に茶色い瞳に白い肌。切れ長の目に小さく知的な口元という日本的な顔立ちと、大きな瞳に濃い眉、赤い唇という、西洋人形のような顔立ち。どちらも長身の美男ではあるが、容姿から年の頃、性格に至るまでが被らない。
 共通項は、ひとりの十八の少女だとは。
 益田は改めて驚きながら、いつかの哀れな幼い少女が、成長してこの図体のでかい男二人を翻弄しているのかということまで飛躍し、己も歳をとったのだろうと自分の問題にまで置き換えてみる。
 そうして、翻弄されているのだろう当人について考えてみても、こちらについてはかつて考えが読めたことがない。榎木津は中禅寺の方を向いて寝入っていて、顔は見えなかった。いやに派手な配色だが涼しそうではあるシャツの背が、呼吸に合わせてゆっくりと上下している。
「・・・探偵社にもぱったりと顔を見せなくなったと思っていたら、君のせいかぁ」
 榎木津が寝ている(少なくとも起きる気配はしない)のを確認してから益田は口にした。かまを掛けるつもりもあったが、かからなくてもいい。
 松枝は長い首を捻って、僕のせいではないですよと応えた。
「誰のせいなんです?」
 直球で聞けば、僕の口からは言いません、と突っぱねられた。ここまではっきりと断られると食い下がるにもやりづらい。
「・・・そうしたら松枝君。美由紀ちゃんに会ったら伝えてくれませんかね。かっこいい探偵助手のお兄さんが寂しがってたって。うちの給仕もおやつ作って待ってるしってさ」
 松枝は鋭利な形をした黒い目を僅かに細めて、はいと頷いた。少ししてから、今のは笑ったのかもしれないと益田は思った。
 彼らの考えていることは、益田にはちっともわからない。推理だけが、構築される。(だてに探偵業ではない。)
 中禅寺は面白くもなさそうにはんと笑った。
「ちっともそそられないお誘いだなあ」
「そんなことありませんよぅ」
「ああまったくだ。僕だって帰りたくなくなる」
 くぐもった低音が卓袱台の下辺りから響いた。
 ばたんと仰向きに寝返った拍子に、松枝の膝の上にいた猫が顔を上げ警戒する。探偵はしばらく天井を見上げ、黙っていた。後頭部を支えにして首を反らし、何やら松枝と目を合わせているようだった。この二人の共通項を知っている身としては、何やら居たたまれなくなる。
「・・・にゃんこ」
「はい」
 榎木津が頭上に腕を伸ばすと、その先にいた猫は、先の微睡んだ顔が嘘のように機敏に動いて避けた。松枝の膝からも降りて、そのままのそのそと廊下を歩いて行ってしまう。

「ずるい」
「・・・正面から触ろうとするからですよ」

 暢気なやり取りである。
 この二人が会話をするのを見るのは初めてではなく、いずれも何やら気抜けするような対話だった。
「正面からの方が怖くない気がしたんだがなあ」
「あんたは構いすぎるから、鬱陶しがられているだけだよ」
「頭上に手を翳すだけで嫌がるのもいますよ」
「ふん、そんなの僕に関係あるものか」
「も~榎木津さん、そりゃぁいきなりがばっと頭掴まれたら、どんななつっこい猫だってびっくりしますよ。餌付けからがんばってみちゃどうです?」
「益田君、そんなのは何年も前からやっているよ。それでこの男の手から食べはするんだがね、懐かない」
「あら~」
 口の端で愉快そうに笑う中禅寺を横目で睨みながら、榎木津は腹筋だけで起き上がった。目が据わっているが、肩をぐるぐるまわしているところを見ると、どうやらもう寝るつもりはないらしい。不機嫌そうにこの不届き者共め、と軽く罵ってから、すっくと立ち上がって益田を睨む。帰るぞ、ということだ。
 榎木津はふいに後ろを振り返った。そこには松枝がいて、榎木津を無表情に見上げている。
「じゃあね」
「はい」
 意外に仲はいいのだろうか。恋のライバルと呼ぶには、少し緊張感に欠けている。 

 厠を借りている益田を待つことなく、榎木津はさっさと縁側から靴を履いて出てきていた。
 九月半ばの日差しは少し前より幾らか柔らかくなったと感じたが、それでも薄い色の肌をじりじりと焼く。
 背中で玄関がガラガラと音を立て、榎木津は振り返った。思った益田ではなく、中禅寺である。
「何だ見送りか? 珍しい」 
「違う。なあ、あんたはマゾヒズムでも追求しているのかい」
「するかそんなもの」
 とっさに答えたが、榎木津はすぐに中禅寺のいわんとすることを理解した。
 榎木津自身、誰にも何も隠しているつもりはないし、中禅寺はどうせ気付くだろうと思っていたのだ。
 恰好悪いことではあるから、言いたくはない。けれど、ばれても仕方ないと思えるほどには、切羽詰まっている。
「仕方ないじゃないか」
 中禅寺は肩を落としてため息をつくと、仕方ないのかなぁ、と思案するように反復した。
「・・・僕にだって、あの子と、彼と、あんたの事情はわからないよ。あんたが仕方ないと言うならそうなのかもしれない・・・が、これでいいのかい」
 中禅寺が、古い付き合いの人間にも滅多に見せない切ないような顔を見せるから、榎木津も居心地が悪い。只でさえ、十分に鬱憤は溜まっているというのに。

「視てるだけで、本当にいいのか」
「見失うより、ずっといい」 
 
 榎木津自身も自分らしくないことをしていることはわかっている。しかし、優先順位の問題だったのだ。

 生きているのか死んでいるのか、健勝なのかそうでないのか、どんな姿をしているのか、どんな表情をしているのか、困っていないか、悲しんでいないか、ひとつもわからなくなることこそを、回避しなければいけない。

 あれから――榎木津の部屋から美由紀が飛び出していった日から、美由紀は探偵事務所にも、探偵事務所の面々にも、顔を見せなくなった。中禅寺にも、その細君にも面会していない。
 美由紀は若いが、賢い娘だ。これが例えば、友人としての口論だとか、兄妹のような関係の上でのいざこざだったりしたのなら、美由紀は自分を避けたりせずに、怒っていたとしても数週間で出てきて、何らかの始末をつけただろう。始終考え事をするような娘だから、有耶無耶は嫌いなのだ。
 今回は、そのどれとも違う。
 榎木津はあの日、夢から覚めた瞬間、男と女としてのやり方でもって美由紀に触れてしまったから。
 それで嫌われたのだとしたら、賢いあの娘はきっと、身を守るもっとも有効な手段をとってくるだろう。

 縁を切るだろう。

 ――これだけは、仕方がない。

「・・・らしくないんですね」
 中禅寺は、いつも関口に見せるような心底困ったという顔をして、話を止めた。玄関から物音がして、益田が出てくると察したのだろう。
「この手の話題は、さすがのあんたも無敵じゃないわけだ」
「挑発してるのか?」
「ああ」
 榎木津は、はああっとわざとらしい大きなため息をついてから、飛び出てきた益田が近寄るのを待ってその額を思い切りひっぱたいた。



 (8)へ

1たす1は2だって数字を考えた人も~♪きっと恋愛じゃそんなにうまくはいかな~い♪かもね♪
 

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