忍者ブログ
京極堂シリーズの二次小説(NL)を格納するブログです。
| Admin | Write | Comment |
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
最新CM
[07/17 ミエ原]
[09/30 SHIRo]
[09/23 まりも]
[07/18 まりも(marimo65)]
[06/15 まりも(marimo65)]
プロフィール
HN:
行葉(yukiha)
性別:
女性
自己紹介:
はじめまして。よろしくどうぞ。

好きなもの:
谷崎、漱石、榎木津探偵とその助手、るろ剣、onepiece、POMERA、ラーメンズ、江戸サブカル、宗教学、日本酒、馬、猫、ペンギン、エレクトロニカぽいの、スピッツ。aph。
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
アクセス解析
フリーエリア
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

★探偵×女学生
『可愛いひと』(二)の続きです

(三)
 
 アレは恋なのだろう。
 窓を全開にすると、冷たい風が吹き込んだ。束ねていないカーテンがふわりと膨らむ。
「榎木津さんどうしたんです? 寒いですよぉ」
「こいだなあ」
「へ?鯉ですか?どこ?」
「うるさい妖怪カマゲボク」
 愚かすぎる助手が何か喚くのを無視して、僕は窓から地上を見下ろした。
 もうすぐ、このビルから女の子が出て来る。きっと、少し急ぎ足で。
 彼女は女の子にしては大股でさっさと歩く。まっすぐに前を向いて。
 だからきっと、これからこの通りを歩いて、この窓からは見えない所まで行くのもあっという間なのだろう。
 早く早く。
 僕は窓枠に肘をついて地上を見下ろし、彼女を待っている。

 さっき、台所で彼女とぶつかった。
 咄嗟に彼女の肩を掴んだ。目測よりも、小さくて細くて、温かかった。そう言えば、掌に感触や温度が残っている。
 ああいうのは始めて見たから、正直言って吃驚した。
 見る見るうちに彼女の頬が赤くなって、猫のような形の目が丸くなって、何かものすごいものを発見したような顔をしていた。実際、発見したのだろう。
 その様子を見た瞬間、僕はかすかに息苦しさを覚えた。
 赤ちゃんや子猫がわあわあニャアニャア啼くエネルギーを目の当たりにした時の気持ちと、それは似ていた。そして、それと混ざって、身体の内側を不意打ちでくすぐられたような、とても懐かしい感覚も確かにあった。
 ああそうか。
 だから僕はあの時、彼女に可愛いと言ったのだな。

 彼女が僕に向けている感情がどういったものか、僕は少し前から察していた。しかし、恋というのは当人が自覚しないことには立ち行かない。自覚がないなら単なる慕情で、その先は、たぶんない。そうならそうで構わないし、僕がどうこう言うことではないだろう。
 だから、放っておいた。
 そうしたら、女学生君はどうやら、恋を感得してしまったらしい。

 ビルから一人の女の子が出てきた。
 傾きかけた陽を受けた黒髪が、歩調に合わせて揺れている。大股で、前を向いて、さっさと歩く。やっぱりいつもより早足だ。
 ふいに歩みが遅くなった。
 空を仰ぐように、こちらを見上げる。
 顔までよく見えないが、目が合っている気がした。
 ひらひらと手を振ってやる。
 すると彼女は、慌てた様子でひとつお辞儀をして、また足早に歩いて行った。

 急いだって、隠したって無駄だというのになあ。
 うん?

 彼女の紺色のブレザーを目で追いながら、ひとつ思いつく。
 僕に隠すことは無駄ではあるが、では本当に、彼女が僕に隠さなくなったら。
 彼女が自覚したらしい恋心を、僕にぶつけてくる日が来たら。
 僕はどうするのだろう。
 その思いつきがおもしろくて、僕は思わず噴き出して笑った。
 誰が想像するだろう。あんな年端も行かない娘が、この僕のあり方を左右するかもしれないなんて。僕だって想像できない。

 僕は窓を閉めると、腕を上げてぐっと背骨を伸ばした。踵を返して、ソファへ向かう。

 急いだって隠したって、考えたって、やっぱりしょうがない。
 今のところ、僕はあの子がいれた紅茶を美味しく頂くばかりだ。



終わり?

 

拍手

PR
この記事にコメントする
NAME:
TITLE:
MAIL:
URL:
COMMENT:
PASS: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
≪ Back  │HOME│  Next ≫

[45] [43] [42] [41] [40] [39] [38] [37] [36] [35] [34]

Copyright c バラの葉ひらひら。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By Mako's / Template by カキゴオリ☆
忍者ブログ [PR]